[注] ゴーストサイトメトリー (ghost cytometry: GC) [eLife, 2021; Science 2018]
[出典]
"Pooled CRISPR screening of high-content cellular phenotypes using ghost cytometry" Tsubouchi A, An Y, Kawamura Y [..] Ota S. Cell Rep Methods 2024-03-25. https://doi.org/10.1016/j.crmeth.2024.100737 [所属] ThinkCyte Inc, U British Columbia, 東大;グラフィカルアブストラクト [右図参照]

プール型CRISPRスクリーンにおいて、細胞の生存性だけでなく、細胞のフェノタイプを読み出しとすることで、関心のある遺伝子の機能を高い特異性と高感度が解析することが可能になる。 しかし、細胞や細胞内の生体分子を標識するに適切なバイオマーカーや染色法を適用できない場合は、細胞フェノタイプを読み出しとする特長を活かすことができない。この課題に対処するため、ラベルフリーのハイコンテンツ細胞フェノタイプを機械学習を利用して解析可能にしたのが、ゴーストサイトメトリー (ghost cytometry: GC) [eLife, 2021 ; Science 2018 ] である。GCは現在、ThinkCyte社から「AI駆動型のイメージ認識型高速セルソーティング技術」VisionSort として商品化されている [GCとGC-プール型CRISPRスクリーンのワークフローについては、論文のイントロダクションを引用して本記事後半 [*]で紹介]。
GCの開発を主導した東大准教授/シンクサイト株式会社CSO太田禎生が率いる研究チームが、今回、GCを読み出しに利用するプール型CRISPRスクリーニングによる成果を報告した:
- 蛍光モードで作動するハイコンテント・セルソーターを用いて、RelAの核内転位に影響を与える遺伝子を標的としたキナーゼ特異的CRISPRスクリーニングに成功した。
- マルチパラメトリック・ラベルフリーモードを用いて、マクロファージの極性化に関与する遺伝子を同定する大規模スクリーニングを実現した。
[*]
GCとは [論文 Fig 1. A参照]
GCは、測定シグナルから画像を再構成することなく、機械学習に基づいて細胞形態情報を直接的かつ統合的に解析する。細胞からの 蛍光や染色フリーのハイコンテンツ情報が、ゴースト・モーション・イメ ージング (GMI) 波形と呼ぶ時間信号に圧縮変換される。この変換は、細胞がマイクロチャンネル内の静的構造化光照明を通過する際に起こり、光学的相互作用は単一ピクセル検出器を用いて測定される。異なる角度や経路を通して光学的相互作用を観察する構成により、複数の検出器を用いて複数の異なる時間的GMI波形を同時に検出する。具体的には、488nmレーザーで励起された蛍光GMI (flGMI) 波形、および405nmレーザーで生成された前方散乱GMI (fsGMI)、後方散乱GMI (bsGMI)、回折GMI (dGMI)、明視野GMI (bfGMI)波形を、対応する顕微鏡画像のアナログとして測定する。機械学習の手法の一つであるサポートベクターマシン (SVM)に基づく分類モデルを開発するため、まず、複数のGMI波形を測定するトレーニング細胞サンプルを用い、表面マーカーや機能評価などの分子染色を用いて作成したグラウンドトゥルース (ground truth https://en.wikipedia.org/wiki/Ground_truth)・ラベルを用意する。
波形と真のラベルのペアからなるこのトレーニングデータセットを用いて、ターゲットとなるハイコンテンツフェノタイプを定義し、SVMモデルをトレーニングする。トレーニング後、分類器はSVMベースのスコアリングを用いて、複数のGMI波形から直接ラベルを予測する。これらのSVMスコアにより、ユーザーはソーティング実験を行う前に、PR (precision-recall) 曲線やROC-AUC (receiver operating characteristic-area under the curve) スコアなどの指標を通して、ソーティング性能を推定することができる。
細胞ソーティングの間、訓練された分類器はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ (FPGA) 上に実装され、生成されたGMI波形のみを用いてリアルタイムで細胞を判定することができ、この評価に基づいてその後の細胞ソーティングを容易にする。計算集約的な画像再構成を必要としないGMI波形の直接解析により、大規模スクリーニングにおける高含量細胞ソーティングのスピードと精度が向上する。
GCで訓練された分類器を用いたプール型CRISPRスクリーンとは [論文Fig. 1 B参照]
Cas9タンパク質を発現する細胞に、関心のある遺伝子を標的とする一連のsgRNAを帯びたレンチウイルスのライブラリーを導入し、一連の標的遺伝子がノックアウト (KO)された細胞ライブラリーを化合物や試薬で処理し、遺伝子KOに応じた多フェノタイプを発現させる。ここで、必要に応じて、免疫染色などを追加することも可能である。
GCベースのセルソーターでは、あらかじめ訓練された機械学習モデルが適用され、目的のハイコンテンツ・フェノタイプを示す細胞が選択的に濃縮される。
最後に、選別された細胞は、ゲノム配列決定などの遺伝子解析、タンパク質アッセイ、細胞ベースの機能解析など、様々な生物学的アッセイの対象とすることができる。
標準的なCRISPR摂動スクリーニングの場合、ゲノムDNAは選別された細胞から抽出され、sgRNAの領域がPCRによって増幅され、プールされ、標的フェノタイプを誘導する遺伝子を同定するために市販の次世代シーケンサー (NGS) プラットフォームを用いて読み取られる。生細胞をソートした場合、scRNA-seqと細胞ベースの機能アッセイを用いたトランスクリプトミクスを適用できる。
コメント