[出典] "Branched chemically modified poly(A) tails enhance the translation capacity of mRNA" Chen H [..] Wang X. Nat Biotechnol. 2024-03-22. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02174-7 [所属] MIT, Broad Institute of MIT and Harvard, Harvard U.

 COVID-19に対するワクチンの開発と接種の過程で、mRNAがワクチンとして有効なことが証明された。しかし、一般的な治療薬としての可能性には、体内での安定性と翻訳能力 (タンパク質生産能) の低さによる限界がある。ブロード研究所とMITの研究チームは今回、mRNAからのタンパク質の発現レベルと発現期間を向上させるため、複数の合成ポリ (A) テールを帯びたトポロジー的・化学的に修飾されたmRNAを設計・合成した。これは、mRNAの機能が主として配列によって規定され、安定性は主として骨格の化学的性質で決定されることから、機能を維持したままmRNAの構造の設計の自由度が高い特徴を活かしたアプローチである。

 mRNAのポリ(A)テールは、mRNAを分解から守る上で重要な役割を果たしている。Wangらは、ACS Chemical Biology 誌に掲載された2022年の論文で、デアデニラーゼ (deadenylase) 耐性オリゴヌクレオチドでポリ(A) テールを化学修飾すると、mRNAの自然崩壊が遅くなり、タンパク質の産生が改善されることを報告していた[*]。これらのいわゆるmessenger-oligonucleotide conjugated RNAs (mocRNA) は、化学的に合成したオリゴをmRNAの3′末端に結合させることによって作られる。
[*] "Chemically Modified mocRNAs for Highly Efficient Protein Expression in Mammalian Cells" Aditham A [..] Wang X. ACS Chem Biol. 2022-12-16. 

 研究チームは今回、ポリ(A) テールを複数鎖で修飾された、より複雑なmRNA構造を工学的に作れば、mRNAの治療効果が高まるという仮説を立てた。研究チームは、分岐が0~3本で、3種類の化学修飾を施したmRNA構造をテストした [論文Fig. 1参照]。修飾はホスホロチオエート (PS)、DNA、2'-O-メトキシエチル (2MOE) を選択した。複数の分岐構造をテストした後、研究者らは、ステムと分岐ポリ (A) オリゴの両方に2種類の化学修飾 (PSと2MOE) を施した3分岐構造が最も優れた増強効果を示すことを突き止めた。

 この最適化されたマルチテールmRNA (NanoLucで標識) は、ヒト細胞において、トランスフェクション後24~72時間で、コントロールmRNAより4.7~19.5倍高い発光シグナルを示し、マウスin vivoではコントロールのシグナル7日未満に対し、14日間検出可能なシグナルを示した。

 さらに、Cas9タンパク質とガイドRNAをコードするマルチテールmRNAをLNPを介して送達することで、マウスの肝臓において、臨床的に重要な遺伝子であるPcsk9 Angptl3 の効率的な多重ゲノム編集を、最小限のmRNA投与量で達成した。また、このLNP単回投与が、マウスの血流中のコレステロールを低減することも確認された [論文Fig. 4参照]