[出典] "Genome engineering with Cas9 and AAV repair templates generates frequent concatemeric insertions of viral vectors" Suchy FP [..] Majeti R, Nakauchi H. Nat Biotechnol. 2024-04-08. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02171-w [所属] Stanford U School of Medicine, Stanford U, U Oxford, JSPS, 東大医科研

[Cas9とテンプレートによるDSBからのHDR過程を介した遺伝子ノックイン]

 ゲノム工学は、嚢胞性線維症、表皮水疱症、鎌状赤血球症を含むほとんどの血液疾患など、多くの遺伝子疾患に対する根治療法を約束するものである。それでもなお、ゲノムエンジニアが利用できるツールは不完全であり、編集効率を高め、オフターゲット効果を減らし、オンターゲットの忠実度を向上させる余地がある4。CRISPR-Cas9とアデノ随伴ウイルス血清型6 (AAV6) の組み合わせは、部位特異的な遺伝子改変を高効率で行うことが証明されている。

  ウイルスとしてのAAVは、他のほとんどのトランスフェクション・プロトコルよりも毒性が低く、効率的な方法でDNAを送達するように進化してきた。遺伝子編集にあたっては通常、Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP)は細胞にエレクトロポレーションされ、ゲノムの標的部位で二本鎖切断を引き起こすが、AAV6は一本鎖DNA修復テンプレートを核内に送達する。その後、細胞の相同性指向性修復機構が、AAV6によって送達されたDNAをテンプレートとして、Cas9によって誘導された切断を修復する。このアプローチは、in vitroおよびin vivoで細胞のゲノムに小さな変化と大きな挿入の両方を行うために使用されている10。AAVの安全性はよく研究されており、世界中で100以上の臨床試験が行われている。

[Cas9-sgRNA RNPのエレクトロポレーションとAASは介したテンプレート送達に伴う不都合な遺伝子改変]

 修復用テンプレートをプラスミドとして導入する手法に対して、AAV6ベクターで送達することで、様々な細胞型において、遺伝子ノックイン率が約100倍向上した。しかし、PCRベースの遺伝子型判定法3種類の結果を比較したところ、結果に一貫性がないことがわかり、標的遺伝子改変の忠実性に疑問が生じた
[Fig. 1  参照]。そこで、ddPCRをベースとするより複雑で予期せぬ遺伝子型を検出するための新たな戦略を開発・利用したところ、遺伝子編集細胞の半数の標的部位にAAVゲノムのコンカテマーがノックインされていることが示唆される結果となった。第三者のグループも、Cas9-sgRNAの切断部位へのAAVの異常挿入を報告しているが、それらの解析は前増幅 (Pre Amplification)を使用していた [*1, 2]。しかし、今回発見した高濃度のコンカテマー・ノックインは、これまでに報告された異常とは異なる構造を持ち、一般的なPCR遺伝子型判定法では容易に検出できず、他の精密遺伝子編集に見られるエラーよりも高濃度であった。

 前臨床研究では、コンカテマーのノックインは結論を不明瞭にし、再現性を妨げる可能性がある。臨床研究においては、遺伝子ノックアウトやその他の予期せぬ表現型が生じ、意図しない危険な結果をもたらす可能性がある。こうしたリスクがあったが、コンカテマー・ノックインの頻度や潜在的な影響に関する包括的な解析は、従来の方法ではこれらの異常やその数が容易に定量化できないため、これまで行われてこなかった。

[本研究の成果まとめ]

 本研究では、Cas9/AAV6を介した遺伝子編集結果を改善するために、(1) ddPCRをベースとして複雑な遺伝子型を定量化する検出戦略を開発・検証し、同時にAAVを介したコンカテマーのノックインが一般的な分析法では検出されない理由を示した; (2) ヒト多能性幹細胞 (PSCs) および造血幹・前駆細胞 (HSPCs) の複数の遺伝子座におけるコンカテマー・ノックインの頻度を明らかにした。 (3) 既存の前臨床および臨床遺伝子編集パイプラインに最小限の変更を加えるだけで、コンカテマー・ノックインの頻度を大幅に減少させるアプローチを開発した。

[引用論文と参考論文とその紹介crisp-bio記事]
  1. [*] 2019-10-02 Cas9-sgRNAをAAVベクターで送達すると、標的部位/DSB部位にAAVが組み込まれる  ; High levels of AAV vector integration into CRISPR-induced DNA breaks. Hanlon KS [..] Maguire CA, György B. Nat Commun. 2019-09-30. 
  2. [*] CRISPRメモ_2019/02/19 [第1項] デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)モデルマウスにSaCas9をAAVで送達してからの1年; "Long-term evaluation of AAV-CRISPR genome editing for Duchenne muscular dystrophy" Nelson C [..]  Gersbach CA. Nat Med. 2019-02-18. 
  3. 2022-10-31 CRISPR-Cas9遺伝子編集がオンターゲットに誘発する意図しない大規模な遺伝子改変の定量化;"Comprehensive analysis and accurate quantification of unintended large gene modifications induced by CRISPR-Cas9 gene editing" Park SH [..] Bao G. Sci Adv 2022-10-21.  
  4. [20230430更新] ヒト造血幹細胞において目的外のゲノム改変を最小限にする精密な遺伝子修復;"Precise CRISPR-Cas–mediated gene repair with minimal off-target and unintended on-target mutations in human hematopoietic stem cells" Tran NT, Danner E, Li X [..] Rajewsky K, Chu VT. Sci Adv 2022-06-03.