[注] ニトロプラスト / Nitroplast (nitro- + -plast) /窒素の構造体という意味からの命名
2024-12-14 Science 誌の"Breakthrouhg of the year 10"に選ばれた:
2024-04-15 Nature誌刊行論文とニュース記事に準拠した初稿
[出典]
[出典] "2024 BREAKTHROUGH OF THE YEAR" Cohen J. Science. 2025-12-12. https://doi.org/10.1126/science.zerwwzo
- 効果的なHIV予防薬の開発
- CAR-T療法による自己免疫疾患の治療
- 宇宙望遠鏡JWSTの開発
- RNAi農薬の商品化
- 海藻の窒素固定の起源解明
- 新たなタイプの永久磁石の開発
- 古代の真核生物誕生後早期の多細胞化を解明
- マントル波による大陸の形成を解明
- スペースXのスターシップロケットが帰還・再利用に成功
- 古代のヒトゲノム解析から血縁関係の濃さを解明
[出典]
- NEWS "Scientists discover first nitrogen-fixing organelle" Malsbury E. UC Santa Cruz 2024-04-11. https://news.ucsc.edu/2024/04/nitrogen-fixing-organelle.html
- ニュース "海産微細藻類における窒素固定型シアノバクテリアのオルガネラ化(細胞内小器官化)の進行を明らかに - 自然科学系農学部門の足立真佐雄教授と海洋コア国際研究所の萩野恭子客員講師らの研究グループの成果が、Science誌に掲載されました" 高知大学 2024-04-12. http://www.kochi-u.ac.jp/information/2024040100016/
- NEWS "Scientists discover first algae that can fix nitrogen — thanks to a tiny cell structure" Wong C. Nature 2024-04-11.https://doi.org/10.1038/d41586-024-01046-z
現代の生物学の教科書は、窒素を大気中から取り込み、生物に利用可能な形に変換できるのはバクテリアとアーケアだけだと記されている。マメ科植物のように窒素を固定する植物は、根粒に共生バクテリアを保有することで窒素を固定する。しかし、最近の発見がその法則を覆した。
最近、Cell 誌 [*1]とScience 誌 [*2] から相次いで刊行された論文で、国際共同研究チームが、真核細胞内で初めて知られている窒素固定オルガネラについて述べている。このオルガネラは、原核細胞が真核細胞に飲み込まれ、共生を越えてへと進化するプロセスである第一次内部共生の歴史上4番目の例である。
このオルガネラの発見は、僥倖と数十年にわたる努力の結晶である。1998年、UC Santa Cruz海洋科学部のJonathan Zehr教授が、太平洋の海水から未知の窒素固定シアノバクテリアのものと思われる短いDNA配列を発見しUCYN-Aを名付け [Science, 2012]、この謎の生物の研究に何年も費やした。
同じ頃、日本の高知大学の古生物学者萩野恭子は、微細藻類の培養に苦心していた。それがUCYN-Aの宿主生物であることが判明した。萩野は300回以上の採集と10年以上の歳月を費やしたが、高知県産のトロコテンをベースとする培地を開発することで、最終的にこの微細藻類の培養に成功し、各研究室におけるUCYN-Aとその宿主である微細藻類の研究が一気に加速されることになった。
長年にわたり、UCYN-Aは微細藻類と密接に結びついた共生生物と考えられていたが、最近の2つの論文により、UCYN-Aは宿主との共生を経て進化し、現在ではオルガネラに位置付けられるに至った。Cell 論文では、UCYN-Aとその宿主藻類とのサイズ比は、海洋ハプト藻類Braarudosphaera bigelowii の異なる種間で類似していることが示されている。また、宿主細胞とUCYN-Aの増殖が栄養素の交換によって制御されていることを、モデルを用いて実証した。両者の代謝は連動しており、この成長速度の同期化をもって、UCYN-Aを "オルガネラ様 "と呼ぶに至った。
さらに、Science 論文で、UCYN-Aが宿主細胞からタンパク質を取り込んでいることを明らかにしている。宿主細胞はタンパク質を作り、特定のアミノ酸配列でラベル付けし、それをニトロプラストに送るよう細胞に指示し。そしてニトロプラストはそのタンパク質を取り込み、UCYN-A内の特定の経路のギャップを埋めるのに利用する。すなわち、UCYN-Aは宿主細胞に依存することが明確に示された。さらに、UCYN-Aは藻類細胞と同期して複製され、他のオルガネラのように遺伝することから、UCYN-Aは"オルガネラ様"から"オルガネラ"へと位置付けられ、クロロプラスト (葉緑体) に倣って、ニトロプラストと呼ばれるに至った。また、ミトコンドリアやクロロプラストは、数十億年前に共生生物からオルガネラに進化したのに対して、共生生物からニトロプラストへの進化は約一億年前と推定された。
さらに、Science 論文で、UCYN-Aが宿主細胞からタンパク質を取り込んでいることを明らかにしている。宿主細胞はタンパク質を作り、特定のアミノ酸配列でラベル付けし、それをニトロプラストに送るよう細胞に指示し。そしてニトロプラストはそのタンパク質を取り込み、UCYN-A内の特定の経路のギャップを埋めるのに利用する。すなわち、UCYN-Aは宿主細胞に依存することが明確に示された。さらに、UCYN-Aは藻類細胞と同期して複製され、他のオルガネラのように遺伝することから、UCYN-Aは"オルガネラ様"から"オルガネラ"へと位置付けられ、クロロプラスト (葉緑体) に倣って、ニトロプラストと呼ばれるに至った。また、ミトコンドリアやクロロプラストは、数十億年前に共生生物からオルガネラに進化したのに対して、共生生物からニトロプラストへの進化は約一億年前と推定された。
このオルガネラはまた、海洋生態系についての洞察も与えてくれる。すべての生物は生物学的に利用可能な形で窒素を必要としており、UCYN-Aは大気から窒素を固定する能力において世界的に重要である。UCYN-Aは熱帯から北極海まであらゆる場所で発見されており、かなりの量の窒素を固定している。
このオルガネラは、農業を変える可能性を秘めている。大気中の窒素からアンモニア肥料を合成する能力は、20世紀初頭に農業と世界人口の飛躍を可能にした。ハーバー・ボッシュ法 として知られ、世界の食料生産の約50%を可能にしている。一方で、この手法は、膨大な量の二酸化炭素を発生させる。世界の排出量の約1.4%がこのプロセスによるものである。今回、UCYN-Aを作物に工学的に組み込むことで、二酸化炭素の発生を抑制するアプローチの可能性も見えてきた。
[*] 参考文献
- "Metabolic trade-offs constrain the cell size ratio in a nitrogen-fixing symbiosis" Cornejo-Castillo FM, Inomura K, Zehr JP, Follows MJ. Cell 2024-03-11/03-28. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.02.016 [所属] Institut de Ciències del Mar, UC Santa Cruz, U Rhode Island, MIT
- "Nitrogen-fixing organelle in a marine alga" Coale TH, Loconte V, Turk-Kubo KA, Vanslembrouck B, Mak WKE, Cheung S, Ekman A, Chen JH, Hagino K, Takano Y, Nishimura T, Adachi M, Le Gros M, Larabell C, Zehr JP. Science 2024-04-11/04-12. https://doi.org/10.1126/science.adk1075 [所属] UC Santa Cruz, UCSF, Lawrence Berkeley National Laboratory, National Taiwan Ocean U, 高知大学, 水産技術研究所 (水産研究・教育機構)
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