[出典] 
展望 "Surpassing sensitivity limits in liquid biopsy" Moser T, Heitzer H. Science. 2024-01-18. https://doi.org/10.1126/science.adn1886 [所属] Medical U Graz.
論文 "Priming agents transiently reduce the clearance of cell-free DNA to improve liquid biopsies" Martin-Alonso C, Tabrizi S, Xiong K [..] Adalsteinsson VA. Science 2024-01-19. https://doi.org/10.1126/science.adf2341 [所属] MIT, Koch Institute for Integrative Cancer Research (MIT), Institute for Medical Engineering and Science (MIT), Broad Institute of MIT and Harvard, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Microsoft Research, Dana-Farber Cancer Institute,  Brigham and Women's Hospital, Wyss Institute at Harvard U, HHMI;グラフィカルアブストラクト 

 血中を循環するセルフリーDNA (cell-free DNA: cfDNA) をベースとするリキッドバイオプシーは、外科手術を必要としない採血に依存する非侵襲的検査を可能し、さらに、血液を採取することにより、腫瘍の位置が不明な場合でも腫瘍DNAを検出することができる。癌患者のcfRNAには、腫瘍由来の断片 (circulating tumor DNA: ctDNA) を含まれているからである。

 進行期の腫瘍では、薬剤耐性メカニズムや作用標的を検出するためのctDNA解析がすでに臨床に応用されており [Ann Oncol, 2022]、このctDNAによるアプローチは、より早期の腫瘍にも拡大され続けている。

 しかし、cfDNAを腫瘍のスクリーニングと微小残存病変 (minimal residual disease: MRD) のアッセイに利用するには、感度を画期的に向上させ、これまでにない精度で極めて微量のctDNAを検出可能とする課題が、立ち塞がっている。これまでの、感度向上の試みのほとんどは、サンプリング、分ライブラリー調製などの分析法、バイオインフォマティクスなどのex vivo 戦略に向いていた。Martin-Alonsoらは今回、生体内でcfDNAの自然なクリアランス機構を一過性に抑制することで、採血した血液サンプル中に多くのctDNAが残り、少量の血液でも検出が可能になり、癌マウスモデルにおいて、リキッドバイオプシーの感度が大幅に向上することを、報告した。

 [詳細]

生体内でcfDNAのクリアランスの一過性抑制

 cfDNAをクリアする内因性機構には、肝臓に常在するマクロファージによる取り込みと、循環するヌクレアーゼによる分解、の2種類ある。本研究では、これらの機構に作用してctDNAの回収を促進すべく、採血の1〜2時間前に静脈内に投与する2種類のプライミング剤の開発を目指した。

 その結果、2種類のプライミング剤を併用することになった:(i) cfDNAのクリアランスを担う細胞に作用するナノ粒子;(ii) cfDNAを保護するDNA結合モノクローナル抗体 (mAbs) 

ナノ粒子

 ナノ粒子のプライミング戦略を検討し、スクシニルホスホエタノールアミンをベースとするリポソーム剤を同定した。このリポソーム剤は、in vitroでcfDNAの取り込みを阻害し、健康なマウスでは血液からのcfDNAの回収を一過性に増加させた。リポソームは肝臓に速やかに蓄積し、cfDNAの半減期延長には肝臓常在マクロファージが必要であることを確認した。

mABs

 DNA結合性mAbがcfDNAのエレメントと相互作用し、二本鎖DNAをヌクレアーゼ消化から保護することを示した。Fc-γ受容体 (FcγR) 結合を阻害するようにmAbを設計すると、健常マウスにおけるネイティブmAbやアイソタイプコントロールmAbと比較して、循環中の持続性が向上し、血液からのcfDNAの回収が増加した。

前臨床がんモデルマウス由来血漿サンプルでの実証

 1,822個の血漿サンプルを対象として、腫瘍特異的一塩基変異 (SNV) の追跡に特化したctDNAアッセイを用いて、互いに直交する二重のプライミング戦略によりctDNAの回収率が10倍以上向上し、ctDNAからより完全な腫瘍分子プロファイリングが可能になり、小さな腫瘍の検出感度が10%未満から75%以上に向上することを実証した。

手法の汎用性

 生体内での分析対象物のクリアランスを一時的に減衰させ、診断感度を高めるプライミング剤を投与するというコンセプトは、腫瘍学以外の分野においても、希少バイオマーカーの検査を強化するアプローチに役立つ可能性がある。