- 生物工学で作製されるCAR T細胞は、幹細胞に似た状態にするタンパク質を大量に投与することで、より長く、より強く、機能するようになる
[出典] NEWS "How to supercharge cancer-fighting cells: give them stem-cell skills" Reardon S. Nature 2024-04-10. https://doi.org/10.1038/d41586-024-01043-2

 人工的なキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor: CAR) を導入されたT細胞は、攻撃し、治癒さえすることが示されているが、癌との戦いが長く続くと、疲弊する傾向がある。今回、オーストラリアと米国の2つの研究チームが、疲弊したCAR-T細胞を特定のタンパク質を大量に持つように遺伝子操作することで、幹細胞と同様の遺伝子活性を持たせることで、癌を攻撃する能力を回復させることに成功した [*1, 2]

疲弊したCAR-T細胞を蘇らせる

 CAR T細胞は白血病やリンパ腫に対してこれまでにない治療効果を発揮したが、その活性を治癒に至るまで長期間維持させることが、乳癌や肺癌などの固形癌では特に、容易ではないことが明らかになっている。そこで、CAR T細胞をより早く増殖させ、体内でその活性をより長く持続させる手法が模索されている。

 米国スタンフォード大学の免疫学者Crystal L. Mackallと、ペンシルバニア大学の細胞・遺伝子治療研究者Evan W. Weberが率いる研究チームは [*1]、白血病患者において、CAR-T細胞療法の治療効果が良好であった患者と不良であった患者のCAR-T細胞を比較分析した。その結果、治療効果が良好なCAR T細胞では、治療効果が不良な細胞よりも活性が高い41種類の遺伝子が浮かび上がってきたが、41個の遺伝子はすべて、FOXO1と呼ばれるマスタースイッチタンパク質によって制御されているようであった。

 研究者らは次に、CAR T細胞を改変し、通常よりも多くのFOXO1を産生させた。この細胞の遺伝子活性は、癌を認識し、それに迅速に反応するTメモリー幹細胞様の特性を示した。

 研究者らは次に、様々な種類の癌を帯びたマウスにこの細胞を注入し、過剰なFOXO1が、CAR T細胞を血液癌だけでなく固形癌も低減させることを確認した。幹細胞様CAR-T細胞は、標準的なCAR T細胞よりもマウスの腫瘍をより完全に縮小し、体内でより長く持続した。

マスタースイッチ分子

 オーストラリアのPeter MacCallum Cancer Centreの免疫学者Phillip Darcy, Junyun Lai, Paul Beavisが率いるチームも、米国チームとは異なる手法で、独立に、同じ結論に達した [*2]。研究チームは、いくつかの臨床試験でCAR T細胞と同時に投与されている免疫シグナル分子IL-15の効果を分析する中で、IL-15はT細胞を幹細胞のような状態に切り替えるのに役立つが、T細胞は癌と闘うために成熟するのではなく、そこで立ち往生してしまうことがあることに気付いていた。

 研究チームは、CAR T細胞の遺伝子活性を分析し、IL-15がFOXO1に関連する遺伝子を活性化にしすることを発見した。そこで、FOXO1を高レベルで産生するようにCAR T細胞を操作したところ、より幹細胞に近い状態になると共に、成熟し、疲弊することなく癌と闘えるようになることを発見した。研究チームはまた、高レベルのFOXO1がCAR T細胞の代謝を改善し、マウスに注入したときにCAR T細胞の活性がより長期間持続することも発見した。

 FOXO1を過剰発現するCAR T細胞を癌患者に投与することは、極めて簡単であろうが、Mackallによれば、"若返った細胞"が、どのような人々、どのような癌に、有効かを見極める必要がある。Darcyによれば、オーストラリアのチームは、FOXO1の効果を見るための臨床試験を検討している。

 Weberは、白血病患者が遺伝子操作によってc-Junと呼ばれる別のマスタースイッチ・タンパク質を異常に多く産生するようにCAR T細胞を投与されている現在進行中の臨床試験に注目している。この臨床試験の結果はまだ発表されていないが、Mackallによれば、同じシステムがFOXO1にも適用できる可能性があり、両方のタンパク質を過剰発現させることで細胞がさらに強力になるオプションが広がる。

[紹介論文とCRISPR-Cas9の利用]
  1. "FOXO1 is a master regulator of memory programming in CAR T cells" Doan AE, Mueller KP, Chen AY [..] Mackall CL, Weber EW. Nature  2024-04-10. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07300-8 [所属] Stanford Cancer Institute, Perelman School of Medicine (UPenn), Children's Hospital of Philadelphia, Stanford U, Gladstone-UCSF Institute of Genomic Immunology,Genentech, Parker Institute for Cancer Immunotherapy.

    [CRISPR-Cas9遺伝子編集の利用]

    CRISPR-Cas9を利用してFOXO1 をノックアウトする (FOXO1KO)裏付け実験を行った。FOXO1KO CAR T細胞は、AAVS1編集の対照CAR T細胞と比較して、増殖およびCD8+頻度が減少し、記憶関連マーカーが減少し、消耗関連マーカーが増加した。FOXO1KO細胞は一様にCD62L の表面発現が低かったことから、バルクRNA-seqのためにCD62Llo FOXO1KO細胞を磁気精製することで、FOXO1 編集の代用マーカーとしてCD62L を使用した。FOXO1KO 細胞は、活性化および疲弊関連遺伝子(TOX, NR4A1, FOS およびCD69 )をアップレギュレートし、記憶およびFOXO1 標的遺伝子 (IL7R およびCCR7 ) をダウンレギュレートし、ナイーブ様ではなく、より疲弊した遺伝子発現シグネチャーを示した。

  2.  "FOXO1 enhances CAR T cell stemness, metabolic fitness and efficacy" Chan JD, Scheffler CM, Munoz I [..] Lai J, Beavis PA, Darcy PK. Nature 2024-04-10. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07242-1 [所属] Peter MacCallum Cancer Centre, U Melbourne,  RMIT U, La Trobe U, Monash U

    [CRISPR-Cas9遺伝子編集の利用]

     ヒトLewis Y (LeY) CAR T細胞におけるCRISPR-Cas9を介したFOXO1 ターゲティングは、CD62L 発現の消失と、長期培養によるCAR T細胞増殖の減少をもたらし、腫瘍細胞との共培養によりIFNγの産生が損なわれた。FOXO1 発現CAR T細胞における表現型の変化は、CAR T細胞の活性化によりほぼ可逆的であったことから、FOXO1 発現CAR T細胞が、一過性の活性化および回復後、あるいは長期の慢性刺激アッセイにおいて、より幹細胞様の表現型を回復しうるかどうかを検討した。FOXO1 発現CAR T細胞は、活性化後1週間の休止期間後、あるいは3週間にわたって腫瘍細胞に曝露した後、あまり分化していない状態を維持した (maintained a less-differentiated state)。

[CAR-T細胞強化関連crisp_bio記事, NEWSおよび論文]