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[出典] NEWS "Lessons in persistence" Couzin-Frankel J. Science 2024-04-11. https://doi.org/10.1126/science.adp7205

 ロングCOVIDを対象とするモノクローナル抗体の臨床試験を設計したUCFSのSteven Deeks感染症専門医は、「ロングCOVIDの身体への影響は、混乱し混沌としているように見える」「初期の小規模な臨床試験には限界がある」と言う。臨床試験は通常、腫瘍の大きさ、脳の病変、血液細胞の数などの客観的な測定値によって判定されるが、ロングCOVIDにはこうしたマーカーがないため、治療が効いているかどうかを判断するのが難しくなる。いうまでもなく、症状だけに頼るのは危険である。なぜなら、同一患者においても症状は時間とともに予測不可能に変化するからである。それでも、臨床試験には意味がある。たとえ失敗に終わったとしても、ロングCOVIDの理解が進み、次の臨床試験への手がかりが得られるからである。最近の推計によると米国におけるロングCOVID患者は少なくとも1,700万人におよび、他の国々ではさらに数百万人が罹患し、混乱と混沌の中で苦しんでいる。

 現在、研究者の関心を集めているのは、「急性期のCOVID-19から回復した後も残存しているサーズウイルス2が、ロングCOVIDの主因であり、サーズウイルス2を除去することで、ロングCOVIDを治癒できるのか」という問いである。

 これまでに、感染から数ヶ月後でも、肺、消化管や便、神経系、筋肉など全身でサーズウイルス2のRNAが検出され、血液からも検出されている。ハーバード大学の化学者 David Walt の研究チームは、自ら開発した超高感度な血液検査によって、ロングCOVID患者37人中24人からサーズウイルス2のタンパク質を検出したが、少なくとも1ヶ月前にCOVID-19から回復した26人からはウイルスの痕跡がなかったと報告している。また、英国の大規模な疫学的調査からは、感染後少なくとも30日経過した時点で、鼻や喉にウイルスが残存していた人は、12週間以後にロングCOVIDの症状を訴える可能性が50%高いことが報告された。

 ロングCOVIDに関与するサーズウイルス2の痕跡を処理する臨床試験や研究がいくつか進行している [表"Taking aim at lngering virus参照]。抗ウイルス剤のパクスロビド投与、パクスロビドと異なり急速に複製されるウイルス以外に有効な広域抗
ウイルス投与、腸内のウイルスが血液に入り込むのを阻害する薬剤の投与、残存ウイルスに結合し排除するように設計されたモノクローナル抗体の投与などである。わずか3例であるが、最初の感染から数ヶ月後にCOVID-19モノクローナル抗体の投与によって、全員からロングCOVID症状が消え2年以上正常な生活を送っている例が報告されている。

 ロングCOVIDの臨床研究においては、適切なバイオマーカー特定が待ち望まれている。エイズウイルス (HIV)の場合は、血液中のHIVウイルスのコピー数が予後と一致することが発見され、このコピー数 (すなわち、ウイルス量) と呼ばれるたった一種類の数値で、追跡可能になったのである。バイオマーカーは患者も切望している。「私はロングCOVIDです」と明言できるようになるからである。バイオマーカーが特定されたとしても、それを診断や治療の場で日常的に測定できるとは限らない。例えば、現時点では、血液中のサーズウイルス2は多くの場合極めて微量であり、腸内のサーズウイルス2の検出には腸の細胞の培養が難しくまた腸組織内での分布が不均一なことからサンブルした腸組織にはウイルスが残存していない可能性がある。さらに、同一のロングCOVID患者でも、検査する時期によって検出と非検出が変動することも知られている。加えて、ロングCOVID患者の一部は、残存ウイルスに影響されていない可能性もある。

 ロングCOVIDの臨床研究にはいうまでもなく、投資が必要である。HIVに対抗する薬剤の開発に製薬会社は大規模な投資をしたが、ロングCOVIDの場合は、それを理解しようとする試みがなされつつある中で、それぐらいの期間で投資を回収できるのか見極めがつかないことから、そうした投資は期待できない。また、COVID-19急性期の治療にために開発されたが未使用なモノクローナル抗体が大量に放置されている。

 Icahn School of Medicine at Mount SinaiのDavid Putrinoは、抗ウイルス剤、モノクローナル抗体、免疫調整剤、血液凝固異常を標的とする治療法を組み合わせた臨床試験を実行するネットワークを立ち上げて、「混乱と混沌」に立ち向かおうとしている。
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