[注] PAMレス (PAMless / PAMの縛りが無い)
[出典] "Unraveling the mechanisms of PAMless DNA interrogation by SpRY-Cas9" Hibshman GN, Bravo JPK [..] Taylor DW. Nat Commun. 2024-04-30. https://doi.org/10.1038/s41467-024-47830-3 [所属] U Texas at Austin, Interdisciplinary Life Sciences Graduate Programs (兼任), Dell Medical School (兼任)

 CRISPR-SpCas9はゲノム編集のための強力なツールであるが、標的可能な領域 (ゲノム配列)は、NGG配列が隣接している領域に限られるというPAM (Protospacer adjacent motif)の縛りがあるために、実際に編集できる遺伝子は限られている。この課題に対して、これまでに、NGNをPAM配列とするSpG-Cas9 (SpG)やほぼPAMレス (NRNとNRNよりは弱いがNYN*も認識)のSpRY-Cas9 (SpRY) など、PAM要件を緩和したCas9バリアントが設計された [*1]。しかし、SpRYがどのようにして全ての潜在的なPAM配列を認識するのか、その分子機構は不明なままであった。
[*] N=A/C/G/T; R=A/G; Y=C/T

 テキサス大学オースティン校の研究チームが今回、構造的 [*2] および生化学的アプローチを組み合わせて、SpRYがどのようにDNAを探索し、標的部位を認識するのかを明らかにした。
  • Structural basis of PAMless  1SpRYは、標的DNAのホスホジエステル骨格との間で非特異的な静電的相互作用をすることで、PAMと相互作用する領域のコンフォメーションが柔軟になったことで、多様なPAM配列との結合が可能になる [Fig. 1引用右図参照]
  • この非特異的相互作用には核酸配列の相補性に依存しないことから、SpRYは、DNAの融解 (DNA二本鎖の巻き戻し) が始まってもRループを完成できない標的外 (オフターゲット) 部位に蓄積する。SpRYのオフターゲット部位への蓄積は、細胞内在因子に置換されるまでSpRYの有効濃度が低下する。
  • SpRY活性によるDNAが融解する速度が低い (SpCas9の1000分の1)ことから、Structural basis of PAMless 7R-ループ形成中間体をクライオ電顕でリアルタイムで捉えることが可能になった。なお、SpGは、配列の相補性と静電的相互作用でNGN PAMを認識し、SpCas9とSpRYの中間に位置付けられた [Fig. 7引用右図参照]
 本研究において、速度論的特性解析、構造再構成、1分子イメージングを組み合わせたアプローチにより、SpRYによるPAMレスDNAターゲティングの分子機構が明らかになり、バイオテクノロジーにおけるツールとしての活用が期待される。

[*1]  関連crisp_bio記事
2020-03-27 ヒトゲノムのほぼ全域をCas9で標的可能になった - PAMの呪縛を解いたSpGとSpRY. 

[*2]  本研究において再構成された構造情報