[注] PE (prime editing, prime editor; プライム編集, プライム・エディター)
2025-05-15 ブログ記事タイトルを「ゲノム編集の多重化を可能にするプライム編集 (PE)センサー」から「」へと改訂
2024-05-05 Tools of the Trade記事に準拠した初稿
[出典] Tools of the Trade "Prime editing sensors enable multiplexed genome editing" Gould SI. Nat Rev Genet. 2024-04-29.
https://doi.org/10.1038/s41576-024-00737-7 [所属] David H. Koch Institute for Integrative Cancer Research (MIT).
[注] この"Tools of the Trade"記事は、Nature Biotechnology 誌から刊行された論文"High-throughput evaluation of genetic variants with prime editing sensor libraries"の筆頭著者による研究紹介 [本ブログでの原著論文紹介はcrisp_bio 2024-03-15 プライム編集 (PE)センサーライブラリーによる遺伝子変異のハイスループット評価参照]  

 遺伝子変異がもたらす結果を理解するために、研究者はモデル系でこれらの変異を正確に発生させる能力を必要としている。PEはこのような要求を満たすものであり、自然なゲノムの文脈の中でほとんどすべての小さな変異体を作り出すことができる。しかしながら、PEは、目的の変異を操作するための命令を提供するPE・ガイドRNA(pegRNA)の種類によって、編集効率に大きなばらつきがあるために制限されている。この課題を克服するため、Gouldらはプライム編集センサー (prime editing sensor)と呼ぶアプローチを開発した。ここでセンサー (sensor) は、内因性標的部位の合成コピーであり、これによって、PEの主要構成要素であるpegRNAの編集活性と存在量をプール形式で評価可能になった [Fig. 1左側参照] 。

  Prime EditorPEは「探索・置換 (search-and replace) ・ゲノム編集ツール」である。このシステムは、pegRNAにコードされた情報から指示を出すPEタンパク質(Cas9nと逆転写酵素の融合体)で構成されている [右図のモデル図参照]。各pegRNA内には、PEに目的の部位を指示するプロトスペーサー (探索用配列) と、逆転写酵素 (RT)が目的の変異を含むDNA鎖を合成するための鋳型 (RT template)となる3'延長部分 (置換用配列) がある。

 PEにおける重要な課題は、複雑な構造ゆえに何百通りもあるpegRNAsの中から最適な設計を選択することである。対象とする変異の如何によらず、プロトスペーサーと3'伸長部の2つのサブコンポーネント、いわゆるプライマー結合部位 (primer-binding site)と逆転写酵素テンプレート (RT template) の組み合わせの数だけの設計が有り得る。しかも、ほとんどのpegRNAの効率は低いが、膨大なpegRNA設計空間を検索して効率的なpegRNAを同定することは困難である。また、pegRNAの効率を予測する機械学習法は進歩し続けているが、それでも、高効率のpegRNAが得られる保証はない。

 プライム編集センサーのアプローチは、pegRNAの下流にストップコドンを介して内因性標的部位のコピー (センサー) を配置するコンストラクトを設計することで、この課題を解決した。

 センサーは内因性標的部位のコピーであることから、PEは、センサーと内在性標的部位の双方を編集する  [Fig. 1右側参照] 。次世代シークエンシングにより、PE用センサー・カセットの配列を決定し、pegRNAを同定し、センサーでの編集結果を定量する。複数のコンテクストにおいて、センサーでの編集は同じ細胞集団における内因性編集と高い相関があることが示され、さらに、マルチプレックス・フォーマットを用いることで、目的のバリアントごとに複数のpegRNAをデザインし、pegRNAデザイン空間を包括的にスキャンして、センサーにおいて高効率で編集するpegRNAを同定することができる。

 プライム編集センサーを癌で最も高頻度で変異する遺伝子であるTP53 の、臨床的に観察される1,000種類以上のバリアントの解析を試みた。この目的のために、PEGG (Prime Editing Guide Generator)と名付けたPythonパッケージを開発・使用して、各バリアントに対して最大30個のpegRNAセンサーを設計した。PEを安定に発現する肺腺癌由来A549細胞において、この約3万個のpegRNAセンサーのライブラリーをスクリーニングし、p53経路を異なる方法で不活性化する一連のTP53 バリアントを同定した。

 プライム編集センサーの特長は、センサーの編集に基づいて低効率のpegRNAをフィルタリングするところに由来する。このステップにより、データセット中のかなりのノイズが取り除かれ、細胞のフィットネスが向上し、その結果、p53経路を不活性化するp53のオリゴマー化ドメインにおいて、これまで過小評価されていたバリアントを同定するに至った。さらに、オリゴマー化ドメインのバリアントは、導入遺伝子から外来的に過剰発現させても同じ効果は得られないことが明らかになり、ゲノム編集を用いて遺伝子バリアントを本来の文脈で評価することの重要性が浮き彫りになった。

 Samuel I. Gouldは、「プライム編集センサーのアプローチにより、前例のない規模と解像度で、癌などの疾患の遺伝的決定因子を、コーディングとノンコーディングの両面から解明することが可能になる」としている。