[出典] NEWS FEATURE "Do cutting-edge CAR-T-cell therapies cause cancer? What the data say - Regulators have identified around 30 cases of cancer linked to this blockbuster treatment. But is CAR T to blame? The hunt is on for answers." Willyard C. Nature 2024-04-30. 
https://doi.org/10.1038/d41586-024-01215-0

 規制当局は、このブロックバスター療法と関連したがんの症例を30例ほど確認している。しかし、CAR Tが原因なのだろうか?その答えが今、求められている。

 2023年に米国FDAは「CAR-T療法を受けた後のリンパ腫発生が20例ある」と発表したが、2024年3月25日時点で「CAR-T療法を受けた約30,000人のうち、33人からこのようなリンパ腫の報告があった」とし、現在では、すべてのCAR-T治療薬のパッケージに、このような癌が発生したことを明記した警告を表示することを義務づけている。また、欧州医薬品庁 (European Medicines Agency)も調査を始めた。

 現時点では、観察されたリンパ腫のうち、CAR-T細胞が直接の原因になったものがどれだけあったかは不明である。そもそも、多くの癌治療は二次悪性腫瘍を引き起こすリスクを伴っており、CAR-T療法を受けた患者はCAR-T療法以外の癌療法も受けていた。これまでのデータからは、二次悪性腫瘍は稀な現象のようであり、CAR T細胞のメリットは、ほとんどの患者にとって、依然としてリスクを上回っている。しかし、CAR-T療法を改善し拡充するために、また、複数の選択肢がある場合にCAR-T療法が最適解であるか否か判定するために、リンパ腫発生の機構を明確にしておく必要がある。

 FDAが承認した6つのCAR-T療法はすべて、患者自身の免疫細胞を採取し、体外で遺伝子工学を加えたのち、患者に戻す方式で有り、その際に、レトロウイルスを使用する。レトロウイルスからはウイルスを複製するゲノム領域が削除されているが、患者細胞のゲノム上のどこにCAR (キメラ抗原受容体) が導入されるかは、制御できない。そこで、癌の発生を促進する遺伝子の近くに入り込んで活性化させたり、腫瘍抑制遺伝子を不活性化させたりすると、T細胞癌を引き起こすリスクが高まる [Nature 記事の挿入図参照]。挿入突然変異誘発として知られるこの事象は、ほとんどの遺伝子治療に伴うリスクである。例えば、ロンドンとパリのグループが重症複合免疫不全症候群の乳児20人にレトロウイルスをベースとする遺伝子治療を施した際に、ほとんどの参加者に有効であった一方で、レトロウイルスが一部の参加者の癌遺伝子のスイッチを入れ、この活性化によって5人が白血病になり、4人が回復し、1人が死亡した。その結果、ベクターをより安全なものに改良することになった (例えば、遺伝子組み換えが起こらないように)。FDAはCAR-T治療薬について、ベクターが複製できないことを証明する試験を受けることを推奨している。

 2024年1月にFDAの生物製剤評価研究センターの研究チームが、NEJMの展望記事で次のように発表した [*]CAR-T療法を受けた27,000人以上のうち、白血病の報告を22件受け、塩基配列が決定された3つの二次悪性腫瘍において、癌化したT細胞にCAR遺伝子が含まれていることを発見し、CAR-T製剤がT細胞がんの発生に関与した可能性が高いことを示している。その後3月25日までに11件の追加があったことになるが、これらについては分析が完了していない。

 しかし、CAR遺伝子が存在する場合でも、因果関係を証明するのは難しい。オーストラリアの例では、Carvyktiの臨床試験において、表手であった癌は消失したが、5ヵ月後、鼻にT細胞リンパ腫が発生し、CARの遺伝子がPBX2と呼ばれる遺伝子の制御領域に入り込んでいることが明らかになった。一方で、CARの挿入がなくても癌を発症するリスクの高い遺伝子変異を持っていることも明らかになり、この事象も決定的証拠 (smoking gun) をもたらすに至らなかった。すなわち、患者から採取したT細胞に、前癌性のT細胞が含まれていた可能性がある。

 Carvyktiを投与された他の人々も二次癌を発症しており、Carvyktiの初期試験に参加した被験者の長期追跡調査により、97人中10人が骨髄異形成症候群 (前白血病の一種) または急性骨髄性白血病を発症したことが明らかになり、そのうち9人が死亡した。この例では、CAR遺伝子は発見されず、患者由来T細胞の中に、前癌性のものが含まれていた。したがって、CAR-T療法における免疫抑制期間が長引いたことで、それらが癌化したと考えられた。他にも、CAR-T療法の前から内在していたリンパ腫の種が、CARーT療法が炎症環境を作り出したことによって癌化したと思われる例もあった。

 グッドニュースは、CAR-T療法に伴う二次悪性腫瘍は稀なことである。ペンシルバニア大学の遡及的調査によると、2018年1月から2023年11月までの間に、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫を発症した449人をCAR-T療法で治療し、二次悪性手法を発症したのは16人 (3.6%) であった。しかし、そのほとんどは固形腫瘍であり、治療によって直接発生すると予想される種類のがんではなかった。治療された患者のうち血液腫瘍を発症したのは5人だけで、さらに、T細胞がんを発症したのはそのうち1人だけであった。また、2018年から2022年の間に新たに多発性骨髄腫またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された人のT細胞リンパ腫を発症した率が、FDAが報告した27,000人中22例と同程度であったいう報告もある。

 CAR-T療法の対象は、血液腫瘍から、固形腫瘍へ、自己免疫疾患やHIV感染へ、さらには、腎臓移植における拒絶反応や老化細胞へ、と広げられようとしており、メリットがリスクをはるかに上回ることが期待される。

[*] PERSPECTIVE "Secondary Cancers after Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy" Verdun N, Marks P. N Engl J Med. 2024-01-24/02-15.https://doi.org/10.1056/NEJMp2400209