[注] 本投稿は, UKバイオバンクのデータを利用した前向き研究の成果論文一報と, その論文と一部著者が重なる関連論文一報に準拠している。
1. 4万人を超えるUKバイオバンク参加者のデータ解析により, 1,463種類のの血中循環タンパク質の中から癌リスクタンパク質を同定
[出典] “Identifying proteomic risk factors for cancer using prospective and exome analyses of 1463 circulating proteins and risk of 19 cancers in the UK Biobank” Papier K, Atkins JR [..] Smith-Byrne K. Travis RC. Nat Commun 2024-05-15. https://doi.org/10.1038/s41467-024-48017-6 [所属] U Oxford, Queen's U Belfast
UKバイオバンクでは、タンパク質測定と全エクソーム配列データが利用可能であり、潜在的な観察的および遺伝的タンパク質と癌リスクとの関連を調べることができる。オックスフォード大学Nuffield Department of Population Healthを主とする研究チームは今回、UKバイオバンクの参加者44,645人 (平均追跡期間12年) の中で、採血後に癌を発症した参加者と発症しなかった参加者のデータを比較解析した。タンパク質と癌との関連は、cis-pQTLとexome-wide protein genetic score (exGS) という2つの遺伝学的アプローチによって探った。
19種類の癌に焦点を絞り、1463種類のタンパク質との関連を見たところ、618種類のタンパク質が癌リスクとの有意な関連を示し、さらに精査した上で、371種類のタンパク質と少なくとも1つの癌のリスクとの関連がする癌マーカーとして同定された。
371種類の癌マーカーの中には、採血後7年以上経過してから診断された癌と関連する107種類、3年以内の診断と関連する182種類が含まれていた。前者の中には、cis-pQTL解析とexGS解析の両方から関連が支持された4種類のマーカが含まれている:CD74およびTNFRSF1Bと非ホジキンリンパ腫;ADAM8と白血病;SFTPA2と肺癌。
本研究において、複数の血液タンパク質と癌リスクとの関連が同定され、しかも、血漿プロテオミクスを利用することで。従来の方法で実現されてきたよりも早期に癌を検出できる可能性が示された。
2. [第1項関連論文] 2074種類の血中循環タンパク質から9種類の癌のマーカーと治療標的を同定
[出典] “Identifying therapeutic targets for cancer among 2074 circulating proteins and risk of nine cancers” Smith-Byrne K, Hedman Å, Dimitriou M et al. Nat Commun 2024-04-29. https://doi.org/10.1038/s41467-024-46834-3
オックスフォード大学公衆衛生学部のKarl Smith-Byrneが率いる英米スエーデン・独・仏・米・カナダの研究チームが今回、337,822件の癌の症例から得られたcis-pQTLデータ [Supplementary Information引用右図参照]の解析から、2,074個の循環タンパク質と9種類の一般的な癌 (膀胱癌, 乳癌, 子宮内膜癌, 頭頸部癌, 肺癌, 卵巣癌, 膵臓癌, 腎臓癌, 悪性黒色腫以外の皮膚癌)のリスクとの関連を推定した。さらに、癌リスク・タンパク質を変化させることによる副作用を同定し、癌リスク・タンパク質を創薬標的にマッピングするための解析も行った。
その結果、PLAUR (plasminogen Activator, Urokinase Receptor)と乳癌リスクのような一般的な癌と、CTRB1 (Chymotrypsinogen B1) と膵臓癌のような死亡率の高い癌と関連するタンパク質 (癌リスクタンパク質) のべ40種類が同定された。癌と癌リスクタンパク質は多対多の関係にあり、40種類のタンパク質は9種類の癌のすくなくとも1種類と関連し、また、癌は複数の癌リスクタンパク質と関連している (例えば、乳癌は21種類の癌リスクタンパク質と関連している)。
今回同定された癌リスクと関連するタンパク質のうち、15種類は既存の薬剤や臨床試験薬の標的になっていなかったが、18種類は既存の薬剤の標的であり、薬剤のリパーパシングの可能性が示唆された。しかし、薬剤のリパーパシングさらには癌リスクタンパク質の抑制にあたっては、安全性の検証が欠かせない。今回、特定の癌リスク・タンパク質の抑制が、骨関節炎や高血圧のリスクを高めるリスクを伴うことが同定されている。
[著者所属機関] U Oxford, Pfizer Worldwide Research, Pfizer Worldwide Research and Development Medicine, Karolinska Institute, Uppsala U, U Cambridge, Berlin Institute of Health at Charité - Universitätsmedizin Berlin, Queen Mary U London, International Agency for Research on Cancer (Lyon), McGill U, U Bristol,
NIHR Bristol Biomedical Research Centre, U Edinburgh, Stanford U, Sinai Health System and U Toronto, Baylor Medical College, NCI/NIH
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