2025-06-24 Clinical and Translational Medicine 誌掲載紹介記事 (Letter)の書誌情報を以下に追記
LETTER "The discovery of Cas9's trans‐cleavage activity: Unlocking new molecular diagnostic tools" Chen Y, Chen J, Liu L. Clin Transl Med. 2025-06-19. https://doi.org/10.1002/ctm2.70384
2024-08-29 構造解析データが公開されたPDBエントリーへのリンクを追記
[出典] “Trans-nuclease activity of Cas9 activated by DNA or RNA target binding” Chen J, Chen Y, Huang L [..] Liu L. Nat Biotechnol 2024-05-29. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02255-7 [所属] State Key Laboratory of Cellular Stress Biology (Xiamen U).
タイプV (Cas12)およびタイプVI (Cas13)のCRISPR-Casシステムは、非特異的な一本鎖DNA (ssDNA) や一本鎖RNA (ssRNA)をトランス切断するコラテラル活性を帯びていることが知られている[*1]。今回、タイプIIのCRISPR-CasシステムのエフェクターCas9もコラテラル活性を備えていることを、中国の研究チームが発見した。
- Cas9はsgRNAにガイドされて、標的の二本鎖DNA (dsDNA), ssDNAおよびssRNAをアクチべータとして、標的ではないssDNAとssRNAを無差別にトランス切断する。
- Cas9はトランス切断基質に対して配列選択性を持ち、TまたはCに富んだssDNA基質を好んで切断する。
- 結晶構造解析から、RuvCドメインに依存するCas9のトランス切断活性が活性化される構造基盤が明らかにされた [*2]。
- Cas9のトランス切断活性と核酸増幅技術に基づき、DNAおよびRNAサンプルを高感度かつ特異的に検出可能とする核酸検出プラットフォームDNA活性化Cas9検出およびRNA活性化Cas9、DNA-activated Cas9 detection (DACD)とRNA-activated Cas9 detection (RACD)、を開発した [論文Fig. 5参照]。なお、Cas9をベースとするプラットフォームでは、すなわち、レポーターとしてssDNA–FQとssRNA–FQの双方を利用できる。
[構造情報]
- 8KAG Crystal structure of SpyCas9 in complex with sgRNA and target RNA
- 8KAH Crystal structure of SpyCas9-crRNA-tracrRNA complex bound to 18nt target DNA
- 8KAI Crystal structure of SpyCas9-crRNA-tracrRNA complex bound to 17nt target DNA
- 8KAJ Crystal structure of SpyCas9-crRNA-tracrRNA complex bound to 16nt target DNA
- 8KAK Crystal structure of SpyCas9 in complex with sgRNA and 18nt target DNA
- 8KAL Crystal structure of SpyCas9 in complex with sgRNA and 17nt target DNA
- 8KAM Crystal structure of SpyCas9 in complex with sgRNA and 16nt target DNA
[*1] Cas12aとCas13aのコラテラル活性とその利用
Cas12aはガイドRNAに誘導されて標的二本鎖DNA (dsDNA)に結合すると標的ではないssDNAを無差別に切断する。Cas13aは、ガイドRNAに誘導されて標的のRNAに結合するとssRNAを無差別に切断する。すなわち、Cas12aとCas13aは、その基質をアクチベーターとして、コラテラル活性を発揮する。
こうしたCas12aとCas13aのコラテラル活性をベースに、それぞれDNAとRNAを超高感度で検出するDETECTRとSHERLOCKが開発され、また、Cas13a, Cas12a およびCsm6を組み合わせて、3種類のssRNAと1種類のdsDNAを同時に検出可能とするSHERLOCKv2も開発された [crisp_bio CRISPRによる核酸検出・診断 (DETECTRとSHERLOCK)参照]
一方で、Cas12aは標的DNAの認識・切断にプロトスペーサー隣接モチーフ (PAM)配列を必要とし、Cas13aは標的RNAを認識・分解するためにプロトスペーサーフランキング部位 (PFS) 配列を必要とする。PAM配列とPFS配列はガイドRNAを介した基質検出の精度を向上させるが、ターゲットの選択領域を著しく制限するため、検出できる基質の数が大幅に減少し、ひいては、適用対象が限定される。
また、Cas12aのトランス切断活性は容易に活性化され、14ヌクレオチド長のcrRNA相補的なssDNAアクチベーターでさえ、そのトランス切断活性を引き起こすことができる。さらに、ssDNAアクチベーターでは、crRNAガイドとssDNAアクチベーター間の二重のミスマッチが、Cas12aのトランスDNA切断率にほとんど影響しない。dsDNAアクチベーターの場合は、二重のミスマッチはPAMに隣接する「シード領域」で起こった場合にのみ、Cas12aのトランスssDNA切断を阻害することができる。これらの特徴は、病原性の変異体や突然変異を診断するための一塩基分解能を阻害する要因となる。
[*2] Cas9オーソログが示すコラテラル活性の構造基盤
Cas12aとCas12bはその単一のRuvCヌクレアーゼドメインを介して、シスで標的dsDNAを切断し、トランスで非特異的なssDNAを切断する。Cas9もまた、標的dsDNAのうちガイドRNAと相補的でないいわゆる非標的鎖 (non-target strand; NTS)をシスで特異的に切断するRuvCヌクレアーゼドメインを持っている。
SpyCas9複合体構造と、非特異的ssDNAと結合したAacCas12b複合体構造との間のRuvCドメイン構造を比較することにより、Cas9がsgRNAと相補的なssDNAアクチベーター (標的鎖)と会合した後、その2つの触媒ドメインがNTSを収容できるチャネルの形成に関与していることを発見した [論文Fig 1 a参照]。
Cas9 RuvCによるトランス切断には、このチャネルに結合する配列特異的・構造特異的なDNA基質が必要なのではないかと考えられた。SpyCas9-sgRNA-標的ssDNA複合体の非特異的ホモポリマーssDNA基質への結合嗜好性をプロファイリングしたところ、SpyCas9はpoly(T)とpoly(C)を好むことが明らかになった [論文Fig 1 b 参照]。SpyCas9はpoly(T)に対して最も強い結合親和性を示したが、poly(A)とpoly(G)に対してはほとんど結合親和性を示さなかった。
次に、Cy3標識した非特異的ホモポリマーssDNA基質上でのCas9-sgRNA-標的ssDNA複合体の切断嗜好性をプロファイリングした。その結果、SpyCas9、FnCas9、SauCas9はいずれもpoly(T)とpoly(C)に対する切断活性を示したが、poly(A)とpoly(G)に対する切断活性はほとんど示さなかった [論文Fig 1 c参照]。Cas12b酵素と同様に、Cas9オーソログはポリ (T) 23に対して最高の切断活性を示した [論文Fig 1 d参照]。ssDNA基質に加え、ポリ(A)とポリ(T)、ポリ(C)とポリ(G)から形成されるdsDNA基質を用いて、Cas9複合体の切断嗜好性を調べたところ、これらのdsDNA基質はトランスではCas9によってほとんど切断されないことが明らかになった [論文Fig 1 https://www.nature.com/articles/s41587-024-02255-7/figures/1 e参照)。このことは、Cas9はCas12aおよびCas12b酵素と同様に、TまたはCリッチなssDNA基質のみを効果的にトランス切断できるが、dsDNA基質は切断できないことを示唆した。
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