[出典] “Pig-organ transplants: what three human recipients have taught scientists” Kozlov M. Nature 2024-05-17. https://doi.org/10.1038/d41586-024-01453-2
ブタから腎臓を移植された最初の生存者が、移植後2ヶ月弱で死亡した。 このタイミングは、ブタの心臓を初めて移植された人が移植後2ヶ月で死亡したのと同じである。
ニューヨーク大学の移植外科医Robert Montgomeryは、3人のレシピエントの生存期間が比較的短かったことから、「この先駆的な異種移植は、霊長類への移植実験から予測されたほどの大成功を収めることができなかった」としたが、「レシピエントに必要な薬の種類から、ブタの臓器が受けなければならない検査の量に至るまで、貴重な教訓を学んだ。異種移植は解決不可能な課題ではない」と言う。
Nature 誌は、異種移植の外科医たちに、彼らがこれまでに学んだこと、そしてこの分野が今後どのように進んでいくのかについて話を聞いた。
異種移植は、ヒトの臓器が慢性的に不足しているため、外科医の長年の夢であった。異種移植のドナー動物としては、臓器の大きさや解剖学的構造がヒトのそれに似ていることから、ブタが選択された。ブタの臓器を移植されたヒト以外の霊長類のデータは有望であった。2023年に発表された研究では、ブタの腎臓を移植された5匹のサルがそれぞれ1年以上生存したことが報告されている。
生きた人間への最初の異種移植は2022年で、57歳のDavid Bennettがブタの心臓を移植され、手術後60日間生存した。二人目の男性、Lawrence Faucett、は2023年にブタの心臓を移植され、40日間生存した。
メリーランド大学医学部の外科医で、両方のブタ心臓移植のケア・チームに参加していたMuhammad Mohiuddiは、 Bennettの死についていくつかの可能性を挙げている:
- 亡くなる数週間前にBennettは感染症にかかり、医師は何千ものドナーから集めた抗体からなる免疫増強療法を行った。医師らは後に、抗体の一部がブタの臓器に反応したことを発見した。つまり、この治療がベネットの病状を悪化させた可能性があったのだ。それ以来、Mohiuddiは地元の血液銀行と協力して、反応する抗体をスクリーニングする方法を開発した。
- 移植された心臓がブタサイトメガロウイルスと呼ばれる病原体に潜伏感染していたことである。このウイルスはBennettの死後に臓器から発見されたが、移植前の検査では見逃されていた。
また、ブタの腎臓の最初の生体レシピエントであったRichard Slaymanが5月7日に死亡した例でも、基礎的な健康状態の悪化が一因であった可能性がある。ボストンのマサチューセッツ総合病院で移植を執刀した外科医の一人である河合達夫は、Slaymanの腎臓は死の前日まで良好に機能しており、移植とは無関係の理由で死亡したと、語っている。移植前の1年間、スレイマンは鬱血性心不全を発症していた。
生きている人への異種移植はすべて、米国FDAから’compassionate use’の承認を受けている。すなわち、致死的な疾患であり他に治療法が無い患者に対して、未承認療法を、リスクとベネフィットを説明した上で、使用する制度の中で実施された。したがって、このような理由で治療された人々は、移植待機者リストの平均的な人々よりもはるかに病弱である傾向があり、好ましくない結果が処置の結果なのか、レシピエントの健康状態の悪さなのかを判断するのは困難である、とMohiuddiは言う。そのため、一部の研究者たちはFDAに対して、この手術の臨床試験を開始するよう働きかけている。
研究者たちはまた、臓器拒絶反応を防ぐために移植前に何ができるかを実験しているが、し例えば、拒絶反応を食い止めるために必要な遺伝子編集の数さえまだ確定していない。Slaymanの手術に使われたブタを繁殖させたマサチューセッツ州ケンブリッジのバイオテクノロジー企業eGenesisは、拒絶反応を避け、また、臓器に潜むウイルスがレシピエントに感染するリスクを減らすために、過去最高の69の遺伝子編集を施したブタを生産している。一方、ヴァージニア州ブラックスバーグにあるRevivicorは、約10の遺伝子編集を選択している。また、Montgomery博士の研究チームは、4例目となる最新の生体への異種移植として、免疫関連臓器である胸腺を用いた新しいアプローチを試みた。彼らは、移植元のブタの胸腺を腎臓に移植し、4月12日に54歳のLisa Pisanoに移植した。Montgomeryによれば、たった一つの遺伝子組み換えをしたブタを使用したが、Pisanoは病院で安定した状態を保っている、と言う。
Montgomeryによれば、異種早期移植についてはまだ学ぶべきことはたくさんあるとのことである。Montgomery博士のチームは、近々発表予定の研究と本日Nature Medicine誌に発表された研究 [*]において、ブタの心臓を移植される前に法的に死亡宣告を受けた2人の組織サンプルを分析し、細胞レベルでは、異種移植された臓器の拒絶反応は、人間のドナーから移植された臓器の拒絶反応とは「全く異なる」ことを発見した、と言う。そして、「この発見は、研究者が拒絶反応を予測し、将来の手術のためにオーダーメイドの免疫抑制レジメンを開発するのに役立つだろう」と付け加えた。
[*]
“Integrative multi-omics profiling in human decedents receiving pig heart xenografts” Schmauch E, Piening B, Mohebnasab M, Xia B, Zhu C, Stern J, Zhang W [..] Kellis M,, Snyder MP, Montgomery RA, Boeke JD, Keating BJ. Nat Med. 2024-05-17. https://doi.org/10.1038/s41591-024-02972-1
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