- 責任著者がアミロイド・タンパク質形成と記憶障害との関連を示した研究論文の図が操作されていたことを認めた
[出典] SCIENCEINSIDER “Researchers plan to retract landmark Alzheimer’s paper containing doctored images” Piller C. Science 2024-06-04. https://doi.org/10.1126/science.zdo1zpb
2006年にNature誌から刊行された画期的なアルツハイマー病研究論文 [*1]の著者が、画像加工疑惑を受けて研究論文を撤回することに同意した。論文のシニアオーサーであるミネソタ大学 (UMN) ツインシティの神経科学者Karen Asheは、ジャーナル・ディスカッション・サイトPubPeerのスレッド に、「筆頭著者であるUMNの神経科学者Sylvain Lesné(2022年のScience誌の調査対象に含まれた)を除くすべての著者が撤回に同意した」「私は2年前に指摘されるまで、Nature論文中の図が操作されたことを全く知らなかったが、いくつかの図が操作されていることは明らかであり、 シニア-およびコレスポンディング- オーサーとして最終的な責任を負う」と投稿した。インディアナ大学の神経科学者で、Alzheimer’s & Dementia誌の編集者であるDonna Wilcockは「図が操作されたというエビデンスは圧倒的であった (overwhelming)」と言う。
2006年のNature論文では、Aβ*56と呼ばれるアミロイドβ (Aβ) タンパク質がアルツハイマーを引き起こす可能性が示唆されていた。Aβタンパク質は長い間アルツハイマー病と関連付けられてきたが、Lesnéらは、アルツハイマー病に似た症状を発症するように遺伝子操作されたマウスにAβ*56が存在し、認知機能の低下とその蓄積が相関していると報告した。研究チームはまた、Aβ*56を注射したラットの記憶障害も報告している。
何年もの間、研究者たちは脳からアミロイド・タンパク質を除去することによってアルツハイマー病の予後を改善しようとしてきたが、実験的な薬剤はすべて失敗に終わっていた。Aβ*56はより特異的で有望な治療標的であるように思われ、多くの研究者がこの発見を受け入れた。関連研究への資金は急増した。
LesnéはScienceからのコメントの要請に応じなかったが、UMNは2022年6月から彼の研究を調査している。広報担当者によると、UMNは「Nature誌に対し、問題となっている2つの画像を再検討し、これらの図に関連する研究不正はなく、この再検討は終了した 」。この声明では、同じ論文に掲載された他のいくつかの問題のある図については言及しておらず、明らかに画像が加工されている他のLesné論文について結論に達したかどうかについてはコメントしなかった。
Asheは最新のPubPeerへの投稿で、「図の操作によって実験の結論が変わることはなかった」と主張している。iScience誌に掲載された最近の論文 [*2]で、Asheの研究チーム (Lesnéは含まれていない) は、「2006年のNature論文の発見を再確認した」し、また「Aβ*56がアルツハイマー病において重要な役割を果たしている可能性があり、その除去を標的とすることで臨床的に大きな利益をもたらす可能性があると信じ続けている」としている。
Asheは、Science誌への電子メールにおいて、「Nature誌に2006年の論文の訂正記事掲載を求めたが拒否された」「論文撤回の道しか無かった」とし (Nature誌はこのAsheの主張に対してコメントしていない)、「私たちは皆、科学的記録の完全性 (the integrity of the scientific record)を守るという価値観を共有していますが、その表現方法は異なります」と付け加えた。
Wilcockは、AsheのiScience論文がNature誌の発見を再現したという主張を 「誇張 (overstatement) 」だと言っている。一方で、ヴァンダービルト大学の神経科学者Matthew Schragは、大学とは独立に科学的公正性の問題に取り組み、Lesnéの研究論文の問題のほとんどを発見した研究者であるが、AsheがNature論文の撤回を決断したことを、研究の公正性の問題に悩まされるこの分野にとって「正しい方向への重要な一歩」だとし、「時間はかかったが、彼女は公正性 (integrity)のために立ち上がった」と述べた。
Lesnéの疑わしい論文を掲載した他の学術雑誌は、UMNが調査を終えるのを待っている。2つの論文を掲載したScience Signalingの編集者、John Foleyは、最近UMNから「査読について近日中に詳細を発表する予定だ」と伝えられたとのことである。
[*]
- “A specific amyloid-β protein assembly in the brain impairs memory” Lesné S [..] Ashe KH. Nature. 2006-03-16; この論文に対しては、2022年7月14日付で「 この論文のいくつかの図表に対して懸念があり, (Nature誌は)調査を始めている」と言う趣旨のコメントが付された;2024-06-06時点で、アクセス数 60,000回, 被引用件数 2327回, 1398 Altmerricと表示されている。
- 2006年Nature論文の「訂正」版 "Aβ∗56 is a stable oligomer that impairs memory function in mice". Liu P, Lapcinski IP, Hlynialuk CJ, Steuer EL, Loude TJ, Shapiro SL, Kemper LJ, Ashe KH. iScience. 27 2024-03-15.
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