[背景]

 抗菌剤耐性菌感染により、世界中で年間約127万人が死亡しており、有効な新薬がない場合、2050年までに年間1,000万人が死亡する可能性があると予測されている。さらに、WHOによれば、2030年までに約2400万人が、こうした感染症の高額な治療費のために極度の貧困に直面する可能性がある。

1. 深層学習を介して, 絶滅した生物種由来の新たな抗菌性ペプチドを発見 

[] de-extinctionは絶滅した生物種 ( マンモス) を復活する研究 [1] で使われ始めたが、今回、絶滅した生体分子を復活する”molecular de-extension”が使われている。

[出典] “Deep-learning-enabled antibiotic discovery through molecular de-extinction” Wan F, Torres MDT, Peng J, de la Fuente-Nunez C. Nat Biomed Eng 2024-06-11. https://doi.org/10.1038/s41551-024-01201-x [所属] U Pennsylvania

 分子は進化の歴史の記録であり、薬剤の設計図をもたらす可能性がある。著者らは最近、抗生物質耐性などの現代の課題に取り組むために、絶滅した分子を復活させることを意味する"molecular de-extincition " (以下, 古代分子復活)という言葉を紹介した [2]。古代分子再生は、これまで未解明であった分子の新たな配列空間を発見することで、生体分子の多様性を広げる有望なアプローチであると同時に、進化の過程から宿主免疫の役割を果たす可能性のある分子を明らかにする一助となる。古代分子再生はすでに、ネアンデルタール人に由来する子古代プロテオーム (paleoproteome) から免疫反応に利用されるペプチドを探索・合成するアプローチにより neanderthalin-1 (A0A343EQH4-LAM11) [2]などの前臨床抗生物質候補足り得る抗菌性ペプチドを生み出している。

 近年、新たな抗菌剤の探索のために機械学習 (ML)や人工知能 (AI) のアプローチの開発が進んでいる。例えば、MLモデルは抗生物質の生成や抗菌活性、溶血、抗菌剤耐性の予測に用いられている。最近では、プロテオームのマイニングを通じて新しい抗生物質を発見するための計算手法が開発されている。著者らは以前、抗生物質の供給源としてヒトプロテオームをマイニングし、抗菌特性を持つタンパク質内の断片である"encypted peptide (EP)" (暗号化ペプチド)を同定した [3]。その上で、EPは現代人だけでなく、進化全体を通じて存在するという仮説を立てた。そのため、その後、古代プロテオームのマイニングとMLを通じて、古代の人類にも同様の分子が存在することを突き止めた [2]extinct animals

 著者らは今回、新たな抗菌剤の発見を目指して、絶滅した (extinct) 生物種のプロテオーム (すなわち, 'extinctome')を体系的に分析する新たなマルチタスク深層学習アプローチである抗菌性ペプチド復活 (antibiotic peptide de-extinction: APEX) を開発した [Fig. 1引用右図参照]

[*] 

  1. News & Views “De-extinction: Costs, benefits and ethics” Sandler R. Nat Ecol Evol. 2017-03-01. 
  2. Molecular de-extinction of ancient antimicrobial peptides enabled by machine learning” Maasch JRMA, Torres MDT, Melo MCR,  de la Fuente-Nunez C. Cell Host Microbe 2023 07-28. 
  3. Mining for encrypted peptide antibiotics in the human proteome” Torres MDT, Melo MCR, Flowers L, Crescenzi O, Notomista E, de la Fuente-Nunez C. Nat Biomed Eng 2021-11-04. 

[APEX]

  • APEXは利用可能な全ての絶滅生物のプロテオームマイニングを実現する。
  • ペプチド配列エンコーダーとニューラルネットワークを組合せた深層学習モデルのアンサンブルを訓練し10,311,899個のペプチドのマイニングに使用した。
  • マイニングの結果、幅広い抗菌活性を持つ37,176配列が予測され、そのうち11,035配列は現存する生物には見られなかった。その中で、69種類のペプチドを合成し,病原細菌に対する活性を実験的に確認した。
  • 既知の抗菌性ペプチドが細菌の外膜を標的とする傾向があるのに対して、今回発見したペプチドは細胞質膜を脱分極させることによって細菌を死滅させることが確認された。
  • 特筆すべきは、リード化合物 (ケナガマンモス由来のmammuthusin-2、直牙型ゾウ由来のelephasin-2、古代ウミウシ由来のhydrodamin-1、オオナマケモノ由来のmylodonin-2、絶滅したオオヘラジカ由来のmegalocerin-1など) が、皮膚膿瘍や大腿部感染症のマウスにおいて抗感染活性を示したことである。
 深層学習を介した古代分子復活には、抗菌剤の発見を加速させる可能性がある。

2. 機械学習により微生物メタゲノム/ゲノムデータに隠されていた膨大な抗菌ペプチドを発見

- 機械学習技術を利用して, 土壌などから収集したゲノムから約90万個の微生物と闘うペプチド配列を発見

[出典]

  • RESEARCH HIGHLIGHT “AI finds huge cache of anti-bacterial peptides hidden in genomic data - Machine-learning technique uncovers nearly 900,000 microbe-fighting peptide sequences in genomes collected from soils and other sources.” Nature 2024-06-05/06-11. https://doi.org/10.1038/d41586-024-01654-9
  • global microbes論文 Discovery of antimicrobial peptides in the global microbiome with machine learning” Santos-Júnior CD, Torres MDT [..] de la Fuente-Nunez C, Coelho LP. Cell 2024-05-30. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.05.013 ;グラフィカルアブストラクト引用右図参照
 抗生物質耐性の危機と闘うためには、新規抗生物質が緊急に必要とされている。我々は、世界のマイクロバイオーム内の抗菌ペプチド (AMP) を予測するための機械学習ベースのアプローチを提示し、土壌、海洋、ヒトの腸などの生息環境から得られた63,410のメタゲノムと87,920の原核生物の高品質なゲノムからなる膨大なデータセットを活用して、スクリーンショット 2024-06-12 15.12.28既存のデータベースとはほとんど一致しない863,498の非冗長ペプチドからなる包括的なカタログであるAMPSphere作成・公開 [資料Webサイト(トップページを右図に引用)]した。この中には、抗菌性ペプチド候補 (candidate) AMP (c_AMP) が含まれていた。

 AMPSphereは、より長い配列の重複や遺伝子切断を含むペプチドの進化的起源に関する洞察を提供し、c_AMPが特定の生息環境に特異的であり、汎ゲノムの中核遺伝子ではないことが明らかになった。

 この予測を検証するために、100種類のAMPを合成し、in vitroin vivoの両方で、臨床的に関連性のある薬剤耐性病原体とヒト腸内常在菌に対してテストした。

 合計79個のペプチドが活性を示し、そのうち63個は公衆衛生上の懸念事項として認識されている臨床的に重要なESKAPEE病原体に対してin vitroで抗菌活性を示した。また、これらの活性型AMPは細菌膜を破壊することにより抗菌活性を示した。

 本研究は、新規抗菌剤候補ペプチドを発見するとともに、グローバルなマイクロバイオームからMLを介して、機能的AMPを同定することが可能なことを示した。

[著者所属機関] Fudan U, U Federal de São Carlos - UFSCar, U Pennsylvania, U  Politécnica de Madrid, EMBL, U College Cork, Max Delbrück Centre for Molecular Medicine, U Würzburg,