[出典] “6-foot rule, Fauci, and the bigger picture” Jetelina K. Your Local Epidemiologist. Substack, 2024-06-11. https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/6-foot-rule-fauci-and-the-bigger

 米国のCOVID-19タスクフォースの主要メンバーであった前国立アレルギー感染症研究所 (NIAID/NIH)所長のAnthoby Fauci博士は、202463日に下院新型コロナ特別小委員会が開いた公聴会で証言を求められた。小委員会の主な焦点はCOVID-19の起源であったが、パンデミック時の6フィートのソーシャルディスタンス政策など他の話題も持ち込まれた。ソーシャルディスタンスは、学校、企業、礼拝所などでの感染拡大を遅らせるためにとられた重要な措置であった。

 パンデミック中に下された決定や政策に対する冷静な (level-headed)評価は有益であり、必要とされるものだが、小委員会にはそれが全くなかった。それどころか、ニュアンスや深みを欠いた空虚で役に立たない質問がなされ、最悪なことに、国家公務員に対して、たがの外れた (unhinged)ハラスメント [*]が加えられた。
[*] 例えば、共和党保守強硬派のMarjorie Taylor Greene議員は"You're not doctor. You're Mr. Fauci” “I don’t need you answer”, “(he) should be prosecuted for crimes against humanityなどと発言した [YouTube “PBS NewsHour Channel 2024-06-04 https://youtu.be/vIwFeG1TAxY (9分8秒: 音量に注意)]

 その結果は、危険な「pandemic revisionism (パンデミック修正主義)」の波が押し寄せたのだ。公聴会の音声を切り取って、パンデミック政策は無価値であるとか、公衆衛生当局者がでっち上げただけであると結論づける見出しやソーシャルメディアのアカウントが溢れかえったのである。

 米国人にはもっとましなことを知るを手に入れるに値するし、それを必要としている。

6フィート・ポリシー」は一体どこから来たのか?

 小委員会は6フィート・ポリシーについてFauci博士を非難した。Fauci博士はこれに対し、6フィートの社会的距離を置くガイドラインを支持する研究は知らなかったと答えた。また、それが臨床試験の王道であるランダム化比較試験に基づいていないことを明らかにした。

 このやりとりにはいくつかの問題がある:

  1. そもそも6フィート・ポリシーはFauch博士の決定ではなく、CDCが決定したガイドラインであった[2018-2021年と2021-2023年のCDC所長はそれぞれRobert R. RedfieldRochelle P. Waklensky]
  2. この方針は何もないところから引き出されたわけではない。ブッシュ政権時代の2007年、そして2017年にも、この重要な戦略はパンデミック・プレイブックに盛り込まれた。これは当時のインフルエンザに関する知識に基づいていた。すなわち、エアロゾルではなく飛沫が主な感染形態であることをベースにしていた。COVID-19の病原体が新型コロナウイルスであったことを考えると、当時のパンデミック・プレイブックから引用したことは、正しい判断であった。
  3. たとえ6フィートが「完璧な距離」ではなかったとしても、それでも感染を防ぐのに役立った。
  4. 問題は、方針の更新を十分に行わなかったところにある。COVID-19には飛沫感染もあるが、主な感染経路はエアロゾル (空気感染)であることが判明した。2020年の夏には、200人以上の科学者がWHOに書簡を送り、このことを認識するよう促した。しかし、CDCWHOが正式にこれを認めるまでには1年以上かかった。なぜか?また、WHO1メートルとしたのに対し、なぜアメリカは6フィート (1.5メートル) としたのか?これらの疑問に対する答えを求めることは有益である。
  5. 緊急時にはランダム化比較試験は実行不可能である。当時、1日に何千人もの生命が失われていた。最適とは言えない情報でも迅速に動かなければならない。だからこそ備えが重要なのだ。それでも、倫理的にランダム化比較試験では答えられない問題もある。
  6. (このやりとりでは)これまでに学んだ客観的な知見が無視されている。世界が一丸となってパンデミックに取り組んでいるなかで、知見は飛躍的に充実する (したがって、情報の更新が必要である)。その一例が、空気の換気と濾過の威力である。
 残念ながら、この16の指摘は遅きに過ぎた。公聴会における小委員会委員の発言から、何百万人もの人々が、6フィート・ルールは科学的根拠がないという誤った危険なメッセージを受け取った。鳥インフルエンザのように、飛沫が病気を引き起こす重要な要因になる可能性がある場合、次の対応策のためにシナリオを修正するのは非常に難しいだろう。

科学者を攻撃することは的外れ

 当時の重要な意思決定者の一人であるFauch博士に、なぜある決断をしたのか、どのような会話に加わっていたのか、当時どのような考えを持っていたのか、を尋ねるのは妥当なことだ。しかし、公務員 (public servnats)を中傷し、攻撃し、こきおろす (ripping apart)ことは容認できないし、相応しくない。Fauci博士に貶めるレッテルを貼った以下のイーロン・マスクのツイートのように、4400万回以上閲覧されたものもある: “You’re all beagles to me anyway. Crimes against humanity

 公衆衛生の指導者たちは、ピーク時には1日に3,500人もの犠牲者が出る中、古びたシステムを使いながら、不確実性の高い課題に立ち向かった。しばしば不完全な情報をもとに、信じられないほど難しい決断を下さなければならなかった。確かに彼らはミスを犯したが、その奉仕は英雄的であり、愛国的でもあった。私たちはこの2つの真実とともに生きていくことができる。もしそうでなければ、公衆衛生のリーダーを失うことになる。今回のように扱われるのであれば、誰が、不確実な事態に対して立ちあがろうとするだろうか。

[] Fauci博士は公聴会で「脅迫が今も続いている。実際に殺害を企てた容疑者2人が逮捕されたケースもある」と証言した。また、公聴会後のCNNの番組で「公の場で陰謀論に基づく発言があるたび、自身や家族への脅迫や殺害予告が繰り返されてきた」と述べた [CNN 2024-06-04]

もっとましなアプローチを必要としている

 批判的思考と多様な視点によって、COVID-19の緊急事態にふさわしい広さ、深さ、公平さを備えた適切な診断が実現する:

  • なぜ備えがなかったのか?
  • いつ、なぜ、誰が、どのような決断を下したのか?
  • どのようなミスが避けられず、回避可能だったのか?
  • より多くの命を救うことができたのは何か?
  • どうすれば、よりバランスの取れた、全体的な健康観を持つことができたのか?
  • 今後、どのような具体的なステップを踏んでいくのか?

 COVID-19パンデミックで米国は100万人以上の尊い命を失った。私たちは、なぜこのようなことが起きたのか、そして二度とこのようなことが起きないようにするためにはどのような対策が必要なのかを知る権利がある。しかし、狂信的とも言える攻撃や、科学的ではないなんらかの意図を含んだパンデミック修正主義の波に流されることは、最終的に自分自身を傷つけるだけである。