[出典] "Engineering viral vectors for acoustically targeted gene delivery" Li HR, Harb M, Heath JE, Trippett JS, Shapiro MG, Szablowski JO. Nat Commun. 2024-06-10. https://doi.org/10.1038/s41467-024-48974-y [所属] California Institute of Technology, Rice U, HHMI.
[背景]
遺伝子治療は、ヒトの病気を治療するための最も有望な新しいアプローチのひとつである。最近、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いて、失明、筋ジストロフィー、代謝性疾患などの疾患を治療する遺伝子治療の臨床応用が承認された。脳疾患も遺伝子治療の対象になり得るが、アデノ随伴ウイルス (AAV) のような一般的な遺伝子ベクターの部位特異的導入にはまだ大きな課題が残っている。脳遺伝子治療の典型的な方法は、手術によって脳実質に直接注入するもので、侵襲的である。他に、全身注射や髄腔内注射で脳全体への遺伝子導入が可能であり、これらは非侵襲的ではあるが、空間的な正確さに欠けるため、脳内の特定の領域の神経回路を標的することは実現されていない。
一方、集束超音波血液脳関門開口 (focused ultrasound blood-brain-barrier opening: FUS-BBBO) は、非侵襲的で部位特異的な脳への遺伝子導入ルートを提供することで、前述の課題を解決する可能性を秘めている。FUS-BBBOでは、頭蓋骨に孔を開けることなく超音波を集束させ、BBBのタイトジャンクションを一時的に緩め、血液から標的脳部位へのAAVの通過を可能にする。FUS-BBBOの他のメカニズムとしては、トランスサイトーシスの増加や排出トランスポーターのレベル低下が考えられる。FUS-BBBOは静脈内投与されたAAVをミリメートル大の脳部位に標的にしたり、試験された時間枠で明らかな組織損傷なしに脳の広い領域をカバーすることができる。同時に、FUS-BBBOの空間的ターゲティング能力は、空間的特異性を欠く天然の脳貫通型AAV血清型の使用とは一線を画している。しかし、カーゴの送達に天然のAAV血清型を利用する場合、この方法では導入効率に限界があり、また、他の臓器への望ましくない導入を招く。
[成果]
著者らは、FUS-BBBOにAAVを組み合わせるにあたり、AAVの野生型血清型がFUSが誘導するような物理的に緩んだ生物物理的障壁を越えるようには進化しておらず、したがってこの目的には最適ではないという事実から生じていると推論した。その上で、FUS-BBBOの送達に特化して最適化された新しいウイルス血清型を開発することで、これらの限界に対処できるのではないかと考えた。
ウイルスキャプシドタンパク質に変異を導入するキャプシド工学技術は、組織特異性、免疫回避、あるいは軸索追跡などの遺伝子導入特性を強化するために用いられてきた。
しかし、特定の物理的送達機構と連動して働くようにウイルスベクターを最適化するためには、まだ使われていない。著者らはハイスループット生体内セレクションを利用して [Fig. 1引用右図参照]、FUS-BBBO部位での神経細胞局所導入に適したAAVベクターを設計した。こうして得られたベクターは、他の臓器への遺伝子導入を減少させる一方で、超音波を標的とした遺伝子導入と神経細胞トロピズムを大幅に強化し、試験した2つのマウス系統において標的特異性を10倍以上向上させた。
実証実験では、FUS-BBBOを利用してGFP、成長因子、光遺伝学的受容体などのレポーター遺伝子をコードするAAVを齧歯類の脳へ送達することに成功し、海馬への化学遺伝学的受容体の導入の例では、記憶形成を調節する能力を提供した。
本研究は、特定の脳領域に遺伝子を非侵襲的に送達する唯一の既知のアプローチを強化することに加え、AAVベクターを特定の物理的送達メカニズムにむけて最適化することが可能なことを示した。
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