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[出典] NEWS AND VIEWS "Programmable RNA-guided enzymes for next-generation genome editing" Tou CJ, Kleinstiver BP. Nature 2024-06-26 https://doi.org/10.1038/d41586-024-01461-2 [所属} Massachusetts General Hospital, MIT, Harvard Medical School

 ゲノム中の長いDNA配列を再配列するプログラム可能な方法は、生物学者の長年の夢であった [例えばcrisp_bio 2024-03-10参照]。この手法があれば、キロベース・スケールのDNA配列を、細胞内のゲノム上の目的とする位置において、一度に挿入、反転、削除、移動させることが可能になる。そのため、長い配列のゲノム再配置を仲介する天然のリコンビナーゼやトランスポザーゼの研究が盛んに行われてきたが、目的とするゲノム部位にて正確に機能するようにこれらの酵素をリプログラムすることは困難であった。2024年6月26日付Nature 誌に掲載された2つの論文 [crisp_bio 2024-06-27] は、ブリッジRNAによって誘導されて、大規模なゲノム編集能力を発揮するようにリプログラム可能なリコンビナーゼの発見と特徴を報告している。

 確かに、約30-50塩基対からなるゲノムの標的部位に組み込むために、大きなDNAドナー配列を標的とするリコンビナーゼ (タンパク質) は、ゲノム改変技術として特に魅力的であった。これらのタンパク質は、広範かつ複雑なDNAとの相互作用を介して、DNA配列を認識する [Figure 1 a 参照]。この認識様式ゆえに、望む配列に特異的に結合するようにリコンビナーゼをリプログラムすることは困難である。

 多様な配列を標的とする何千ものリコンビナーゼが同定され [Durrant et al., 2003]、さらに、生成型ディープラーニング [Schmitt et al., 2022] による予測や、ZF DNA結合ドメイン (ZFDs)を融合する [Mukhametzyanova et al., 2024]といったタンパク質工学のアプローチにより、リコンビナーゼのツールボックスは大幅に拡充された。それにもかかわらず、完全にリプログラムできるリコンビナーゼは見つかっていない。RNAにガイド (誘導) されてDNAを切断するヌクレアーゼCRISPR-Casが、リプログラム可能なゲノム編集の新時代の幕を開けたように、DNA標的を認識するために容易にカスタマイズ可能なRNA分子を使用するリコンビナーゼが発見されれば、従来のリコンビナーゼのツールボックスの主要な課題を解決できる可能性がある。

 ゲノムを操作する観点からは、可動遺伝因子(Mobile genetic elements: MGEs) として知られているゲノムを移動するDNA配列も興味深い。そのMGEsの中で、最も単純でコンパクトなのが挿入配列 (insertion sequences: ISs) である。これまでに、IS200/605ファミリーのISによってコードされるタンパク質であるIscBとTnpBは、それぞれCas9とCas12酵素の祖先であり、ガイドRNAを使って特定のDNA配列を標的とするDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)でもあることが明らかにされた [Altae-Tran et al., 2021; Tautvydas Karvelis et al., 2021]。さらに、トランスポザーゼTnpAは、しばしばTnpBと共発現し、プログラム可能なゲノム編集に用いられてきた [Strecker et al., 2019] 。RNAのプログラム可能性が、ISによってコードされる酵素の多様な機能を支えていることを考えると、リコンビナーゼも同じようにRNAを利用するように進化した可能性がある。

 IS110ファミリーのISのタンパク質をコードしない (ノンコーディング) 末端配列は、コードされたリコンビナーゼの発現や活性を制御するのに役立っていると推測されている [Gómez-García et al., 2021]。しかし、IS110を介したDNAの切断と統合を宿主生物外で再現する試みは失敗に終わり、宿主から発現された核酸が必要であることが示唆された [Perkins-Balding et al., 1999]。さらに、IS110の近縁であるIS1111は、標的部位を選択するためにノンコーディングRNAを使うという仮説があり [Post and Hall, 2009]、IS110もこの目的のためにRNAを使うのではないかという推測につながった。

 Durrantら [Duran et al., Nature 2024] は、IS110エレメントがリコンビナーゼと、リコンビナーゼを標的部位に導くブリッジRNA (bRNA) と呼ばれるノンコーディングRNAをコードしていることを明らかにした [Figure 1 b参照]。bRNAは、ドナーDNA分子を認識するドナー結合ループ (donor-binding loop: DBL)と、標的部位を特定する標的結合ループ ( target-binding loop: TBL)の2つの領域からなる。Durrantらは、これらのループを独立に操作することが可能であり、IS110ファミリーのリコンビナーゼ(IS621として知られる)をプログラムし、大腸菌のゲノムの望む領域に、カスタムDNA配列を反転、切除、挿入できることを示した。Durrantらはまた、in silico解析によって、他のIS110およびIS1111エレメントのノンコーディング末端においてもbRNAを発見しており、さまざまなブリッジ組換え酵素が存在し、ゲノム編集に利用できる可能性があることを示唆している。重要なことは、bRNAの改変が容易であるため、標的認識のためにタンパク質-DNA相互作用に依存する従来の組み換え酵素よりも、ブリッジ組み換え酵素のリプログラムがはるかに簡単であるということである。

 ブリッジ・リコンビナーゼ、bRNA、ドナーおよび標的DNA間の複雑な相互作用を理解するために、平泉らは [Hiraizumi et al., Nature 2024] 、DNA再配列反応の3つの段階におけるIS621複合体の高分解能構造をクライオ電顕で再構成・解析した。この解析から、DBLとドナー、TBLとターゲットのペアリングを可能にする複雑な分子運動がどのように起こるか、DNA分子を切断する活性部位の構造、リコンビナーゼの疎水性アミノ酸残基がどのようにドナーとターゲットDNAの二重鎖を不安定化させ、bRNAを介したドナーとターゲットDNAの両方の認識を促進するかなどのメカニズムが明らかになった。また、この構造情報は、プログラムされたDNA再配列の効率と特異性を向上させるためのタンパク質工学の手がかりとなる。

 今回の研究の限界は一つには、ブリッジ・リコンビナーゼの特徴づけが、in vitroでの生化学的実験と大腸菌でのin vivoでの研究に限られていたことにある。そのプログラム可能な活性が、哺乳類細胞を含む他の生物の細胞に移行可能かどうかは、まだ確認されていない。しかし、他のプログラム可能なRNA誘導型酵素が、多くの場合、何らかの最適化と工学的手法の後に、様々な細胞や生物で使用されてきたことを考えると、IS110やIS1111といったシステムも哺乳類でも機能するという楽観的な見方もできる [Pacesa et al., 2024]。

 もう一つの懸念は、DBLとTBL配列が比較的短いことから、巨大なゲノムにおいて標的配列が偶然に複数回出現する可能性があり、ひいては、ゲノム上の想定外の部位にも作用するオフターゲット活性のリスクが想定されることである。この懸念に対して、Durrantらは、TBLのセグメントを延長できることを実証しており、bRNAの標的を特定する部分を長くすることで、オフターゲット活性を最小化できる可能性を示唆している。また、より長い結合ループを持つ他の天然型リコンビナーゼが将来発見されれば、それらを組み合わせることで、この問題はさらに軽減されるかもしれない。DNA切断反応や、CRISPR関連トランスポゾン (CRISPR-associated transposons: CAST) [Schmitz et al., 2022]で報告されているようなブリッジ・リコンビナーゼと宿主因子との相互作用の可能性など、IS110ファミリーエレメントの伝播に関するさらなる調査も興味深く、技術開発に役立つかもしれない。

 Arc InstituteのDurrantら東京大学の平泉らの共同研究チームの発見は、オーストラリアの研究チームが2024年6月19日にNature Communication 誌から刊行した論文も裏付けている[Siddiquee et al., 2024 : crisp_bio 2024-07-02の別記事参照]。この研究もまた、IS110とIS1111にコードされたリコンビナーゼが、RNA(Siddiquee らはこれをseeker RNA (seekRNA)と呼んでいる) によって誘導されるプログラム可能なゲノム編集ツールとしての可能性を示している。

 容易にプログラム可能なIS110およびIS1111エレメントの発見と特性解析は、大規模ゲノム改変の夢に向けたエキサイティングな進展であり、広範かつ多様な応用分野で拓けていくことが期待される。今回の成果はまた多様な可動遺伝因子にコードされるRNA誘導型エフェクターの探索の継続を促しことからも、基礎生物学と有力なバイオテクノロジー・ツールの開発とのギャップを埋めていくことが、期待される。

[補足] Figure 1に準拠した従来のタンパク質誘導型リコンビナーゼと新世代のブリッジRNA誘導型リコンビナーゼの比較
  • 従来のリコンビナーゼは、広範で複雑なタンパク質-DNA相互作用を形成することによってDNA配列を認識する。挿入反応では、4つのリコンビナーゼ分子がドナーから切り出される配列と、ドナーのDNAが挿入される標的配列に特異的に結合する。この配列認識様式は複雑であり、他の配列に特異的に結合するようにタンパク質を設計することは困難である。 
  • 現在3つの論文 [日米のNature 論文2報とオーストラリアのNature Communication 論文] が、DNAを認識するためにRNA (brigde RNAとseeker RNA)を用いるリコンビナーゼについて報告している。平泉らの報告によると、このRNAには2つのループがあり、  それぞれドナー配列とターゲット配列に結合する。このループは、リコンビナーゼがユーザー指定の配列の逆位、欠失、挿入を行うように、独立に操作することができる。
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