[出典] "An anti-CRISPR that pulls apart a CRISPR-Cas complex" Trost CN [..] Wang Y, Davidson AR. Nature 2024-07-03. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07642-3 [所属] U Toronto, Institute of Biophysics CAS, U CAS, Jiangsu U

 CRISPR-Casシステムの活性を阻害するタンパク質であるAcrsは、報告されているタンパク質阻害剤の中で最も大きなグループの一つであり、多様な阻害機構と90以上のファミリーが知られている。カナダと中国の研究チームが今回、緑膿菌由来タイプIーF CRISPR-Casシステム
[*1]を阻害す新たなAcr, AcrIF25, をin silico解析と実験検証により発見・特徴づけし、そのユニークな阻害機構を明らかにした。すなわち、AcrIF25は、完全に組み立てられたCRISPRエフェクター複合体からサブユニットを引き剥がすことによって、I-F型CRISPR-Casシステムを阻害する。タイプI-F CRISPR-Casシステムに対するAcrsはこれまで数多く報告されているが [*2]、その機構は、標的DNAへの結合の阻害やヌクレアーゼのリクルートメントの阻害に拠っていた。

 X線構造解析 [*3]および生化学的研究から、AcrIF25はエフェクター複合体の片端から一度に1つのCas7サブユニットを除去することが示された [Fig. 6のモデル図参照]。AcrIF25によってCas7サブユニットが除去されると、crRNAが細胞内のヌクレアーゼにより分解されることから、この阻害メカニズムはin vivoでは特に効果的であり、CRISPR-Cas複合体は不可逆的に不活性化されることになる。

 AcrIF25は、Cas7-1がCas7相互作用パートナーを欠いているCsy複合体の最も弱い部分を利用し、AcrIF25-Cas7相互作用に必要な重要な残基を露出させているように見える。繰り返しサブユニットの重合によって形成される多くのタンパク質複合体の末端には、必然的に同様の「アキレス腱」が存在するため、AcrIF25の攻撃戦略は、他のそのようなメカニズムを同定するためのパラダイムを提供するかもしれない。さらに、AcrIF25のメカニズムをモデルとして、他の巨大分子複合体を分解できるタンパク質を設計することも可能かもしれない。

 最後に、Cas7分子は、CRISPRリピートヘアピンで終端されたRNA分子上で重合し、安定したリボ核タンパク質複合体を形成する可能性がある。このような複合体を迅速に分解するAcrIF25の能力により、新しいタイプのRNAパッケージング・アンパッケージングシステムの開発が可能になるかもしれない。このようなシステムは、細胞内へのRNA分子の送達に広く応用できる可能性がある。

[*1] 緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa  )のI-F型CRISPR-Casシステム
 Csy複合体として知られるこのシステムのエフェクター複合体は、crRNAと4つのCasタンパク質から構成されている。Cas5とCas8のヘテロダイマーがcrRNAの5′末端のハンドルモチーフに結合し、Cas6が3′末端のヘアピンモチーフに結合し、6つのCas7サブユニットが介在するスペーサー領域に沿って配列している [Fig. 1 a 参照]。スペーサーの配列は、Csy複合体が特定のウイルスDNA配列に結合するよう誘導し、外来DNAを破壊するヘリカーゼ/ヌクレアーゼであるCas2-3のリクルートする。緑膿菌Csy複合体はin vitroでの解析に非常に適しており、この複合体に結合した多くのAcrsの構造が決定されている。

[*2] タイプI-F CRISPR-Casを阻害するAcrs関連crisp_bio記事
[*3] 構造情報
  • PDB 8JDH Crystal structure of anti-CRISPR AcrIF25 (X-RAY 1.77 Å)  
  • PDB 8JDI Crystal structure of Cas7-AcrIF25 complex (X-RAY 3.372 Å)