[出典] "A trans-oceanic flight of over 4,200 km by painted lady butterflies" Suchan T, Bataille CP [..] Talavera G. Nat Commun. 2024-06-25. https://doi.org/10.1038/s41467-024-49079-2 [所属] W. Szafer Institute of Botany (Poland), U Ottawa, Institut Botànic de Barcelona, Institut de Biologia Evolutiva (Barcelona), Department of Organismic and Evolutionary Biology and Museum of Comparative Zoology (Harvard U)

 昆虫の長距離移動は、長い間、人々を魅了してきた。昆虫はしばしば、外洋の船上や海洋プラットフォーム、人里離れた島々などを辿った結果、本来の生息域から遠く離れた場所で観察される。しかし、数十年にわたりエビデンスが蓄積されてきたにもかかわらず、昆虫の長距離分散 (long-distance dispersal: LDD) は捉えきれていなかった。小型で短命な生物の長距離移動を追跡する信頼性の高い方法が乏しかったためである。

 大型の昆虫の場合は、スクリーンショット 2024-07-09 16.04.23小型化されたVHF無線送信機によって航行能力を捉えることが可能になり、小型の昆虫でもレーダーを利用することで短距離の追跡が可能になったが、小型の昆虫の長距離移動の観察には適用できず、ひいては、昆虫の分散能力を過小評価する可能性があった。

 スペインを主とする研究チームは今回、南米の大西洋岸(フランス領ギアナ)に生息するヒメアカタテハ (Vanessa cardui )[右図参照] の群れによる、自生域外への飛散を捉えた。

 Talaveraらは、2013年10月28日午前6時にフランス領ギアナの海岸にて、ヒメアカタテハ約10個体のうち3個体を生きたまま捕獲し、傷ついた翅や砂の上での休息行動から、海を勢いよく飛び回った後に到着したと判断した。

 それまでに、ヒメアカタテハは、サハラ砂漠を繰り返し横断し、アフロトロピカル地域と旧北極地域の間を約15,000kmにわたって何世代にもわたって移動することで知られていた。しかし、南米からは安定した個体群が記録されていなかった。そこで、Talaveraらはフランス領ギアナの海岸で発見された個体は、北米、ヨーロッパ、またはアフリカの個体群に由来すると推定した。

 研究チームは、スクリーンショット 2024-07-09 16.04.14風の軌跡のモデリング[論文Fig. 1参照]、ゲノムワイド系統地理学的分析 [論文Fig. 2参照]、花粉メタバーコーディング (蝶に付着した花粉のDNAからの植物特定) [論文Fig.3参照]、生態学的ニッチモデリング、マルチアイソトープ測定に基づく出生地特定 [論文Fig. 4 A) /B)参照]を含む統合的アプローチによって、ヒメアカタテハが、西アフリカから南米フランス領ギアナまでの少なくとも4200kmを、5日から8日間かけて横断したと推定した [Fig. 4引用右図参照]、出生地 (欧州と推定)からのべ7,000 kmを超えた可能性があるとした。この飛翔は、風に助けられた場合にのみエネルギー的に可能であり、また、個々の昆虫の記録としては最長である。