2024-08-17 Nature Biotechnology 誌の論文ハイライト記事の書誌情報と概要を追記
[出典]
Research Highlight "A base editor modifies bacterial genes in the guts of living mice" Marchal I. Nat Biotechnol. 2024-08-14. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02363-4
2024-07-15 初稿- 環境中や生体内のマイクロバイオームにおいて、特定の細菌集団を殺すことなく生体内で改変することは、まだ達成されていない。
- Brödelらは、生きたマウスの腸内細菌に塩基エディターを送達するファージ由来の粒子を工学的に作製することで、これを実現した。
- λファージの尾部先端タンパク質の複数のキメラ変異体を、腸内のいくつかの大腸菌レセプターを標的とするように設計し、細菌内での複製を防ぐように最適化し、塩基エディター(BE)を送達した。
- モデル大腸菌株のβ-ラクタマーゼ遺伝子を標的とするBEをマウスの腸内に単回投与すると、8時間以内に93%の編集効率が得られた。
- また、他の2種類の大腸菌株および肺炎桿菌株への効率的導入も実現した。
- さらに、神経変性や自己免疫疾患に関与するcsgA 遺伝子を、マウスの腸内の病原性大腸菌株で編集することにも成功した。
- コストのかかる突然変異は、マイクロバイオーム内で野生型のバクテリアに対して劣勢になる可能性があるため、今後の研究では、バクテリアのフィットネスに対する編集の影響を調査する必要がある。
- この戦略をより広範な細菌に拡大するには、多様な細菌種に対応する遺伝子工学ツールや、適切な送達ベクターとなる新しいファージ・シャーシを開発する必要がある。
[出典]
- 論文 "In situ targeted base editing of bacteria in the mouse gut" Brödel AK, Charpenay LH[..] Fernandez-Rodriguez J, Duportet X, Bikard D. Nature 2024-07-10. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07681-w [所属] Eligo Bioscience, Institut Pasteur
- NEWS "Scientists edit the genes of gut bacteria in living mice" Conroy G. Nature 2024-07-11. https://doi.org/10.1038/d41586-024-02238-3
マイクロバイオーム研究により、ヒト健康に影響を及ぼすことが同定された細菌株や遺伝子の数が増えつつある。CRISPRゲノム編集ツールはヒト細胞における疾患をもたらす遺伝子の編集や、マウス腸内での有害な細菌の殺傷に成功を収めているが、生体内での選択的編集については成功を収めていなかった。CRISPRゲノム編集ツール送達の効率や精度、標的可能範囲、標的細菌集団内での編集効率などが、十分ではなかった。
フランスの産学の研究チームが今回、ファージ由来の粒子を用いて塩基エディターを導入し、マウスの腸内に生息する大腸菌をマウス体内で改変することに成功した。
- 腸内環境での送達効率を向上させるため、大腸菌の異なるレセプターを標的とする複数のλファージ尾部のキメラ変異体を作製・評価した。
- モデル大腸菌株のβ-ラクタマーゼ遺伝子を編集した結果、1回の投与で約8時間後には標的細胞集団において高い編集効率 (中央値93%) が得られた。
- また、編集された細菌は、処理後少なくとも42日間、マウスの腸内で安定に維持された。これは、人工ファージの利用に加えて、非複製DNAベクターを利用することで [論文Fig. 2参照]、標的以外への塩基エディターの拡散を防いだ結果である。
- 次に、いくつかの神経変性疾患や自己免疫疾患に関与すると考えられているタンパク質を産生する大腸菌の遺伝子の塩基エディターによる改変を試みた。マウスに投与してから3週間後の時点で、編集効率は70%前後に達した。
- 塩基エディターを人工ファージで送達するアプローチは、in vitroにおいても、大腸菌と肺炎桿菌の治療に関連するいくつかの遺伝子の編集にも有効であった。
本研究は、腸内で細菌を直接改変することが可能であることを実証し、細菌遺伝子の機能を調べる新たな手法を提供するとともに、微生物を標的とした新たな治療法の設計への道を拓いた。
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[David BikardのX投稿]
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- 2024-05-24 非増殖性ファージ粒子を利用して主要な blaCTX-Mバリアントを標的とするCRISPR-Cas9を送達する
- 2023-05-10 CRISPR-Casシステムを送達可能なファージの発見・加工により、マウス体内でのE. coliの選択的除去を実現
[David BikardのX投稿]
1/ 🧵 Thrilled to share work of @EligoBio just published in @Nature ! We show proof of principle results of efficient base editing performed on E. coli directly in the mouse gut 🦠💡 #Microbiome #SyntheticBiology https://t.co/efTztuluN9 pic.twitter.com/ma2CySZVah
— David Bikard (@dbikard) July 11, 2024
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