crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] Preview "Combatting superbugs using the evolutionary record of microbial warfare" Raman AS. Cell Host & Microbe. 2024-07-10. https://doi.org/10.1016/j.chom.2024.06.001  [所属] U Chicago
[注] このPreviewは、“Discovery of antimicrobial peptides in the global microbiome with machine learning” Santos-Júnior CD, Torres MDT [..] de la Fuente-Nunez C, Coelho LP. Cell 2024-05-30. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.05.013  [*]をハイライト

スーパーバグの問題

 ESKAPEEと呼ばれる多剤耐性菌 (Entereococcus faecium, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae, Acinetobacter baumanii, Pseudomonas aeruginosa, Enterobacter属)は、抗菌薬耐性の質が著しく加速しており、ポリミキシン系抗生物質であるコリスチンのような最終ラインの抗生物質が効かなくなりつつあるほどである。抗生物質が臨床的にいたるところで処方されていることを考えると、多剤耐性 (MDR) 病原体に対抗する新たな方法の必要性はいくら強調してもしすぎることはない。

抗生物質の創出

 新たな抗生物質を創出する近年のアプローチの一つは、化学の原理や機械学習 (ML) を化合物ライブラリに適用して、抗菌性化学構造の生成規則を学習し、効果を発揮しうる新しい分子を合成する手法である。このアプローチは、化学物空間が巨大なことと、未だ知られていない病原体の弱点を探る必要があること、化学構造と化学的"フェノタイプ" (構造にコードされている機能) の間のマッピングに関する我々の理解が不完全なことから、ローカルミニマムに陥り、最適な化学構造に到達できない可能性がある。言い換えると、関連する抗菌化学物空間の完全な統計的分布を正確に捉えた化学工学モデルは存在しないと考えられる。

抗菌ペプチド (AMP)の発見

 かっては、さまざまな抗生物質が自然界、放線菌などが生成する二次代謝産物、からスクリーンされた。オーストラリア、ドイツ、米国、中国、ブラジル、およびスペインの国際研究チームは今回、マイクロバイオームから、機械学習を介して、膨大なAMPs候補を発見し、その中で863,498種類の抗菌ペプチド (Antimicrobial peptides: AMPs) をAMPsphereから公開した。

 微生物は、土壌、海洋、ヒトの皮膚/腸/粘膜、など、地球環境や生物圏のいたるところに存在し、何十億年もの間、共生、相互扶助、戦争を繰り返してきた。その結果が、ゲノムとメタゲノムに記録されている。一方で近年、ゲノム・メタゲノム配列の解読、データベース化、計算技術 (統計的推論、ML、人工知能 (AI)) が進展し、ゲノム・メタゲノムのデータから情報・知識を抽出することが可能になってきた。

 研究チームは、機械学習の一手法であるランダムフォレスト・アルゴリズムを用いてペプチド・データベースからAMPを予測し、非冗長なAMP候補 (candidate AMPs: c_AMPs) を同定し、既知のAMPに相同なc_AMPはその1%未満であることを発見した。すなわち、自然界に新たなAMPsの広大な空間が広がっていたことを発見した。

c_AMPsを理解する

 研究チームは、(1)c_AMPの起源をより深く理解すること、(2)c_AMPの構造特性を明らかにすること、(3)細菌に対するc_AMPの有効性を示すこと、(4)c_AMPが抗菌活性を発揮するメカニズムを理解すること、(5)生体内でのc_AMPの有用性を明確にするすること、を目的とする一連の解析を行った。

(1)に関しては、3つの重要な結果が示された。
  • c_AMPの7%が、全長タンパク質よりも短いが全長タンパク質と相同であり、開始コドンを20%以上共有しており、c_AMPの一部は完全長タンパク質のターミネーションから生じた可能性がある。
  • c_AMPは抗生物質の合成や耐性に関与する遺伝子ではなく、リボソーム遺伝子に関連している。
  • c_AMPの存在/非存在のパターンが菌株に依存している。
(2)に関しては、c_AMPはバリンやアラニンのような非極性側鎖を持つ残基 (脂肪族) に富んでおり、膜破壊に関する作用機序が示唆された。

(3)に関しては、100種類のc_AMPsを合成し、11種類の病原性細菌-A. baumanii、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性フェカリス菌、バンコマイシン耐性フェシウム菌-に対する抗菌性を試験した。驚くべきことに、合成されたc_AMPsの大半は、これら11種類の病原菌のうち少なくとも1種類の増殖を、時には非常に低いc_AMP濃度でも阻止した。一方で、また、合成されたc_AMPのどれもがMRSAの増殖に影響を与えなかった。したがって、AMPSphereから精度の高いAMPを探索するためには、まだまだ学ぶべきことがある。

(4)に関しては、c_AMPが細菌のフィットネスに影響を与える機序は外膜の破壊であり、これは、c_AMPの構造と整合していた。

(5)に関しては、創傷感染に関連するMDR病原体として知られるA. baumannii による皮膚膿瘍形成のマウスモデルにおいて、c_AMPの有効性が示された。試験したc_AMPsのうち4種類は、ポリミキシンBと同レベルの効果の強力な抗菌性を示した。

[関連crisp_bio記事]
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット