crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] 
 マルチトロンシステムは、単一の転写産物から複数のドナーをコードするDNAを生成し、複雑なゲノム編集を効率化する。このアプローチは、原核生物の組み換えと真核生物のCRISPR-Cas編集の両方で有効であり、分子記録、遺伝要素の最小化、代謝工学への応用が期待される。

 近年、CRISPRガイドRNAを足場としたライブラリー規模のゲノム操作が大きな変革をもたらしている。しかし、これらの既存のアプローチは、通常、ゲノム間で多重化されている。残念ながら、複数の、隣接していない正確な変異を持つ細胞を構築するには、編集、編集された細胞の単離、そしてまた編集という手間のかかるサイクルが必要である。細菌のレトロンを使えば、この限界を克服できる。

 レトロンは、逆転写酵素と、多重コピー一本鎖DNAを含むノンコーディングRNAから構成される遺伝子システムであり、このRNAは逆転写されて多重コピーの一本鎖DNAを生成する。ここでは、1つの転写産物から複数のドナーをコードするDNAが生成されるレトロン・アレイを用いて、同一のゲノム上の複数の部位を同時に正確に改変する技術(マルチトロン)について述べる。

 マルチトロンアーキテクチャは、原核細胞における組換えと真核細胞におけるCRISPR編集の両方に適合する。実証実験では、分子記録、遺伝因子の最小化および代謝工学への応用例を示した。

[レトロン関連crisp_bio記事とShipmanらの先行研究論文]
  • CRISPRメモ_2018/09/24 [第1項] CRISPEY:超並列精密ゲノム編集による機能ゲノミクス;CRISPEY (Cas9-Retron precISe Parallel Editing via homologY)
  • [20220801更新] レトロンをCRISPR-Cas9に組み合わせることで,ヒト細胞における精密遺伝子編集を実現
  • "Precise genome editing across kingdoms of life using retron-derived DNA" Lopez SC, Crawford KD, Lear SK, Bhattarai-Kline S, Shipman SL. Nat Chem Biol. 2021-12-23/2022 Feb:外因性DNAは、細胞のゲノムを正確に編集するためのテンプレートとなり得る。CRISPR-Cas9ゲノム編集の場合は、Cas9-sgRNAが誘導する標的DNA二本鎖切断 (DSB)の相同組み換え修復 (HDR)に外部から修復用DNAテンプレートを組み合わせることで、正確な遺伝子編集を実現可能である。しかし、Cas9とテンプレートDNAは細胞集団の全ての細胞に導入されることはなく、編集効率に限界がある。一方で、レトロンは、細胞内でテンプレートDNAのコピーを大量に生産するDNA工場として機能する可能性がある。Gladstone Institute of Data Science and Biotechnology/UCSFの研究チームは今回、レトロンのノンコーディングRNA (ncRNA) を改変することで、豊富な逆転写DNA(RT-DNA)が得られることを実証した。効率的な逆転写を可能にするレトロンオペロンの構造を調べることで、DNA産生の増加を、原核細胞から真核細胞へと移植可能になり、より効率的なゲノム編集がもたらされた。実証実験では、レトロンRT-DNAを用いて培養ヒト細胞を精密に編集できることを示した。
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