[注] HSPC (Hematopoietic Stem and Progenitor Cells: 造血幹前駆細胞)
[出典] "DNA-PK inhibition enhances gene editing efficiency in HSPCs for CRISPR-based treatment of X-linked hyper IgM syndrome" Pugliano CM [..] Rawlings DJ. Mol Ther Methods Clin Dev. 2024-07-26. https://doi.org/10.1016/j.omtm.2024.101297 [所属] Seattle Children’s Research Institute, CSL Behring, Swiss Institute for Translational Medicine, UW Seattle.
X連鎖高IgM症候群 (X-linked hyper IgM syndrome: X-HIGM)は、活性化ヘルパーT細胞表面上のCD40リガンド (CD40L) をコードするCD40LG 遺伝子の不活性化変異によって引き起こされる原発性免疫疾患である。Rawlingsらは先行研究 [*]で、X-HIGMの潜在的治療戦略として、初代T細胞において、TALENヌクレアーゼとrAAVドナーテンプレートによる相同組み換え修復 (HDR)過程を介した遺伝子編集を試みた。その結果、遺伝子編集されたT細胞におけるCD40Lの発現動態が、編集されていないT細胞における内因性タンパク質の発現動態と同じであり、X-HIGM T細胞におけるCD40Lの発現と機能を回復させたことに成功した。
こうして、X-HIGMの治療法としてT細胞遺伝子編集が有望なことが示されたが、研究チームは、このアプローチをHSPCに応用すれば、XHIMの根治療法となる可能性があることから今回、臨床的に有用な動員性末梢血 (mobilized peripheral blood: mPB) CD34+HSPCsを用いて、CD40LG 遺伝子座における効率的かつ持続的なHDR編集を試みた [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。
- CRISPR-Casp遺伝子編集にあたってDNA-PKcsの低分子阻害剤AZD7648を併用することで、CD40LG 遺伝子座のHDR編集の効率~60%が達成され、また、一次および二次異種移植におけるHDR編集HSPCの生着が促進された。
- 具体的には、キメラレベルや分化能を阻害することなく、一次移植レシピエントにおいてHDR編集された長期HSPCが1.6倍増加することが観察された。
- CD40Lが主にT細胞で発現していることから、生体内および人工胸腺オルガノイド内でHDR編集HSPCからT細胞が分化し、生体内由来のCD4+T細胞の活性化後に内因性に制御されたCD40L発現が実現したことが示された。
本研究は、X-HIGMの新たな遺伝子編集療法の可能性と示すとともに、DNA-PKcsによる阻害がHSPC編集プラットフォームを簡便かつ効果的することを、示した。
[*] 先行研究論文
- "Targeted gene editing restores regulated CD40L function in X-linked hyper-IgM syndrome" Hubbard N [..] Torgerson TR. Blood. 2016-02-22/05-26.
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