[出典] "Engineering Toxoplasma gondii secretion systems for intracellular delivery of multiple large therapeutic proteins to neurons" Bracha S [..] Testa G, Aguzzi A, Koshy AA, Sheiner L, Rechavi O. Nat Microbiol. 2024-07-29. https://doi.org/10.1038/s41564-024-01750-6 [所属] Tel Aviv U, Epeius Pharma (Israel), McGovern Institute for Brain Research (MIT), Harvard U, U Arizona, U Glasgow, U Edinburgh, U Zurich, Human Technopole (Italy), European Institute of Oncology IRCCS, U Milan
治療用タンパク質の有効性は、血液脳関門 (blood brain barrier; BBB) のような生物学的障壁によって、大きく制限されてきた。一方で、ヒト脳に寄生する原虫トキソプラズマ・ゴンディは、ヒトの腸から中枢神経系 (CNS) に自然に移動し、宿主細胞にタンパク質を送達できることが実証されている。
イスラエル・イタリア・スイス・米国・英国の研究チームが今回、T. gondiiの内因性分泌系細胞小器官であるロプトリー (rhoptry) とdense granuleを操作することで、複数の大きな(100 kDa以上)治療用タンパク質の神経細胞への送達を試みた。
- トキソフィリン (toxofilin)との融合によるロプトリーへの治療タンパク質のターゲッティングと、 GRA16との融合によるT. gondii のdense granuleを介した細胞内デリバリーを試みた [それぞれ、Fig. 1 (a/b/c)とFig. 2 (a/b/c)を引用した右図参照]。
- 培養線維芽細胞、in vitro分化神経細胞、初代神経細胞、ならびにヒト脳オルガノイドへの送達、および、マウスin vivoにおける送達を、イメージング、プルダウンアッセイ、scRNA-seq、蛍光レポーターを介して、検証した。
- マウスの実験では、腹腔内投与を介して神経細胞への移動の動態を追跡し、レポータシステムを利用することで、ロプトリーとdense granuleの脳内3次元分布を捉えた [出典 Fig. 6 参照]。
- 概念実証実験において、レット症候群の治療標的と考えられているMeCP2タンパク質のGRA16を介した脳内デリバリーを実証した。
その上で、トキソプラズマ感染によるリスクを回避することを始めとして、このアプローチの可能性と限界、将来の応用のためにさらなる開発が必要な機能について議論した。
[注] ロプトリー分泌とdense granule分泌の比較
- ロプトリー分泌では、タンパク質が細胞質に直接送り込まれるが、dense granule分泌の場合は、タンパク質が細胞内トキソプラズマと宿主細胞質を隔てるカプセル化寄生体胞 (parasitophorous vacuole: PV) に送り込まれ [右図下段 a], 次に、PV膜上の高度に選択的なタンパク質輸送複合体を通って輸送される。
- ロプトリー分泌は、"kiss and spit"機構によってタンパク質を分泌し、細胞膜上の一時的な開口部を通して宿主細胞質に直接タンパク質を放出する。これにより、個々のT. gondii が複数の細胞にタンパク質を注入することが可能になり、細胞内への侵入や持続は必要ない。
- dense granule分泌では、細胞内トキソプラズマと宿主細胞質を隔てるカプセル化寄生体胞 (parasitophorous vacuole: PV) に送り込まれたタンパク質を、さらに、PV膜上の高度に選択的なタンパク質輸送複合体を通って輸送する必要がある。また、T. gondii が宿主細胞内に定着する必要があるが、より高レベルのタンパク質分泌と、より長時間の送達が可能である。
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