[出典] "CRISPR-repressed toxin–antitoxin provides herd immunity against anti-CRISPR elements" Shu X, Wang R, Li Z, Xue Q [..] Li J, Ouyang S, Li M. Nat Chem Biol. 2024-07-29. https://doi.org/10.1038/s41589-024-01693-3 [所属] Institute of Microbiology CAS, U CAS, Fujian Normal U, National U Singapore

 原核生物のCRISPR-Casシステムは、ウイルス (バクテリオファージ)といった可動遺伝因子 (mobile genetic elements: MGEs)から保護する適応免疫システムであることが知られている。一方で、進化的軍拡競争の替え地で、MGEsはanti-CRISPR (Acr) タンパク質を生み出してきたことが知られている。その中で、最近、MGEにはRacrと命名されたRNA anti-CRISPR因子が存在することが報告された [*1]。Racrは、ウイルスゲノムに頻繁に見られる孤発反復単位 (solitary repeat units: SRU) によってコードされ、crRNAを模倣して宿主のCasタンパク質と相互作用し、異常なCasサブコンプレックスを形成する。しかし、MGEのAcrとRacrに対して、CRISPR-Casシステムひいては宿主細胞がどのように対抗しているかについては、詳らかにされていない。

 Hua Xiangらが率いる研究チームは今回、2021年に報告していたCRISPR-repressed toxin-antitoxin (CreTA) モジュールが [*2]、多種多様なAcrタンパク質またはRacr RNAによって活性化され、不稔感染をもたらすことを発見した。すなわち、MGEが宿主細胞に感染 (侵入) するが、それによって、Acr/Racrが細菌集団から排除され、CRISPR/Cas/宿主細胞群が集団としてはMGEから保護されるという集団免疫をもたらすことを、発見した。

 CreTAは当初、アーケアの一種であるHaloarcula hispanica タイプI-B CRISPR-Casシステムで発見された。抗毒素はCreA RNAとして知られ、毒素のプロモーターを部分的に補うcrRNAアナログである。この限られた相補性に基づいて、CreAはCRISPRエフェクター複合体Cascadeを誘導し、DNA切断を起こすことなく、転写レベルで毒素発現を抑制する。毒素CreTは小さな静菌性RNAであり、希少なアルギニンtransfer RNA(tRNA)を隔離することで細胞内の翻訳を阻害する。とはいえ、他の生物種やCRISPRのサブタイプに由来するCreT RNAは、配列の保存性が低いことから、毒性のメカニズムが多様であることが示唆されている。例えば、別のアーケアHalobacterium hubeiense のタイプI-B CRISPR-Casシステム由来のCreTは、希少なイソロイシンtRNAを隔離する別の静菌性RNAである。対照的に、アシネトバクター属WCHA45のタイプI-F CRISPR-Cas由来のCreTは殺菌性RNAとして働くが、その詳細なメカニズムはまだ解明されていない。

 本研究ではまず、タイプI-F CRISPR-Cas由来のCreTAモジュールをさらに探索し、その潜在的なanti-anti-CRISPR因子としての機能を明らかにすることを試みた。
  • Acinetobacter baylyi ADP1のタイプI-F CRISPR-Casシステムにおいて、ファージ由来の毒性タンパク質を用いた明確なCreTAモジュールを同定し、CreP (CRISPR-repressed proteinic toxin) と命名した。
  • CrePは過剰発現すると細胞分裂を阻害する静菌性タンパク質であることが同定された。
  • 生理的条件下では、CrePのプロモーターはCRISPRエフェクター複合体の助けを借りてCreAによって抑制される。
  • 驚くべきことに、このCRISPRによって抑制されたTAモジュールは、CRISPRエフェクター複合体を不活性化する多種多様なMGEコード化Acrタンパク質またはRNAによってトリガーされ、それによってこれらのMGEに対する集団レベルの抵抗性が不稔感染によってもたらされることが示された。
  • この広範なanti-anti-CRISPR活性を利用して、特定のCRISPR-Casシステムを効果的に抑制できるAcr候補を同定するスクリーニング戦略を開発した。
  • スクリーニングから、AcrIF25とAcrIF26と命名することになる2つの未知のAcrタンパク質が同定された。興味深いことに、これらのタンパク質はいずれも、CRISPRエフェクター複合体の非特異的DNA結合を促進することで機能する。
  • 最終的に、TAモジュールが、Acrをコードする外来遺伝因子に対する集団免疫を宿主細胞群に付与するモデルを提唱した [グラフィカルアブストラクト  参照]
[*] 先行研究論文紹介crisp_bio記事