[注] RBM10 (RNA-binding motif protein 10) は, 選択的スプライシングを調節するタンパク質
[出典] "Harnessing DNA replication stress to target RBM10 deficiency in lung adenocarcinoma" Machour FE [..] Ayoub N. Nat Commun. 2024-07-30. https://doi.org/10.1038/s41467-024-50882-0 [所属] Technion—Israel Institute of Technology, Hebrew U;参考図 Fig. 1: Genome-wide CRISPR-Cas9 screen reveals synthetic lethal partners of RBM10 in LUAD cells

 RBM10は、肺腺癌(lung adenocarcinoma: LUAD)において頻繁に変異している(9-25%)。RBM10癌変異の殆どは機能喪失変異であり、腫瘍形成の増大と相関し、現在のLUAD標的療法の有効性を制限している。しかし、RBM10の欠損を標的とする治療戦略はこれまで試みられてこなかった。

 イスラエルの研究チームが今回、RBM10癌変異を保有する同系LUAD細胞株において、ゲノムワイドCRISPR-Cas9合成致死(SL)スクリーニングを行い、WEE1およびオーロラAキナーゼを含む約60の高スコアRBM10 SL遺伝子を同定した。
  • WEE1の薬理学的阻害が、RBM10癌変異を保有する患者由来細胞を含むRBM10欠損LUAD細胞をin vitroおよびマウス異種移植モデルにおいて選択的に感作し、また、これにオーロラA阻害を組み合わせると、この効果がさらに強まった。
  • RBM10とWEE1の合成致死の機構については、DNA複製フォークの進行と複製ストレス応答を制御するRBM10のスプライシングには依存しない機能によってもたらされること、RBM10は、岡崎フラグメントのRNAプライマーを合成する酵素であるPRIM1が必須である活性複製フォークと関連していることが明らかになった。
  • また、RBM10の欠損が、複製フォークにおけるHDAC1の局在を破壊し、H4K16acとRループのレベルを上昇させ、複製フォークを不安定化させ、複製ストレスを誘導することも明らかになった。
 本研究において、DNA複製の微調整におけるRNA結合タンパク質RBM10のこれまで認識されていなかった機能が明らかになり、DNA複製ストレスがRBM10の欠損に伴うSL経路であることが明らかになった。さらに、RBM10欠損腫瘍を根絶するために治療的に利用できるRBM10 SL標的のレパートリーが明らかになり、新たな癌療法への手がかりが示された。