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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "A Novel CRISPR/Cas9-mediated mouse model of colon carcinogenesis" Kashima H [..] Rubin DC. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2024-08-10. https://doi.org/10.1016/j.jcmgh.2024.101390 [所属] Veteran’s Administration St. Louis Health Care System, Washington U St. Louis School of Medicine

 ヒトの散発性大腸癌(CRC)は、大腸上皮における特異的な遺伝子変異の逐次的獲得という多段階の経路から生じる。腫瘍微小環境を理解するためには、CRCをin vivoでモデル化することが重要である。ヒトのCRC病態を正確に再現するためには、マウスモデルにこれらの多段階遺伝子異常を含める必要がある。米国の研究チームが今回、この多段階プロセスをより忠実に模倣した散発性CRCマウスモデルを作製し、このモデルを用いてCRC発症における新規Let7標的PLAGL2の役割を明らかにした。

 誘導可能で多重化可能なCRISPR/Cas9システムを利用して、CRC発症に関与する複数の遺伝子を同時に不活化することで、体細胞突然変異誘発マウスモデルを作出した。具体的には、ドキシサイクリン誘導性の転写活性化因子とドキシサイクリン不活性化転写抑制因子の両方を用いて、Cas9ニッカーゼの漏れのない強固な発現を実現した。このマウスでは、CRCで一般的に変異している4つの癌抑制遺伝子、ApcPtenSmad4Trp53の腸上皮における散発的不活性化を誘導するために、複数のガイドRNAがトランスジェニックに発現されている。これらのマウスをVil-LCL-PLAGL2マウスと交配し、腸上皮でPLAGL2をCre誘導により過剰発現させた。

 Vil-LCL-PLAGL2 マウスは、標的とした4つの癌抑制遺伝子全てにランダムな体細胞変異を帯び、小腸と結腸に多発性の腺腫と腺癌を生じた。Vil-LCL-PLAGL2 マウスとの交配により、腸特異的PLAGL2過剰発現が結腸腫瘍の増殖を増加させることが示された。

 本研究で樹立された条件付きマウスモデルは、CRISPR/Cas9を介した新しい大腸発癌モデルマウスである。これらのマウスは、一般的に変異している複数の癌抑制遺伝子との関連において、CRCにおけるこれまで明らかにされていなかった新規遺伝子の役割を調べるために使用することができ、その結果、ヒトCRCの病態をより忠実に模倣することができる。
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