[出典]
- 論文 "Guide RNA structure design enables combinatorial CRISPRa programs for biosynthetic profiling" Fontana J, Sparkman-Yager D, Faulkner I [..] Zalatan JG, Carothers JM. Nat Commun. 2024-07-27. https://doi.org/10.1038/s41467-024-50528-1 [所属] UW Seattle, Lawrence Berkeley National Laboratory, DOE Joint BioEnergy Institute, DOE Agile BioFoundry
- Behind the Paper "How smarter guide RNA design boosted bacterial production of useful chemicals" Kiattisewee CI, Faulkner I, Carothers J. Springer Nature Research Communities. 2024-08-13. https://communities.springernature.com/posts/how-smarter-guide-rna-design-boosted-bacterial-production-of-useful-chemicals
合成生物学と代謝工学は、循環型共生経済(サーキュラー・バイオエコノミー/circular bioeconomy)の一環として、微生物工場などを介して持続可能な原料から化学物質の生産を可能にする"chemical bioproduction"の大きな可能性を秘めている。微生物工場における単純な基質から価値ある化学物質や材料への効率的な変換には、酵素レベルや化学量論を最適化するために、複数の遺伝子の正確な発現制御が必要となることが多い。
近年の遺伝子発現技術の進歩にもかかわらず、多段階の代謝経路を設計し最適化することは依然として困難である。CRISPR-Casエフェクターをベースとする転写制御システムは、複数の遺伝子の正確な発現をプログラムするための有望な経路として浮上しており、様々な応用に向けた微生物工場の開発を加速させる可能性がある。著者らは先行研究で、複数のガイドRNA(gRNA)の発現を制御することにより、遺伝子の活性化(CRISPRa)または抑制(CRISPRi)をプログラムし、細菌における多遺伝子CRISPR転写制御プログラムを構築するアプローチを開発した [*1,2]。その後、大腸菌における動的多層CRISPRa/i遺伝子制御ネットワークデザインの実証や、土壌微生物Pseudomonas putida におけるCRISPRa/iに基づく代謝工学の報告が続き、CRISPRa/iを利用したプログラム可能な多遺伝子制御の汎用性が示されてきた。しかしながら、複数の細菌遺伝子から同時に活性化された発現を定量的に調整できるCRISPRa/iプログラムの日常的な設計は、知識と技術におけるギャップによって阻まれ続けている。
[*1] CRISPRメモ_2018/06/29 [第3項] E. coliに最適なCRISPRaを開発し、バクテリアの転写をリプログラミング.
[*2] CRISPRメモ_2020-04-07 - 2 [第5項] バクテリアにおけるCRISPRaの活性はプロモーターと標的位置に依存する
定量的に調整可能な多重遺伝子発現プログラムは、微生物代謝工学アプリケーションに特に有用であるが、そこでは、複数の遺伝子の異種経路における酵素の不均衡を最小化し、内因性ネットワークを調整して、代謝フラックスを望ましい出力に向かわせる遺伝子発現プログラムが必要になる。バランスのとれた酵素発現は、ボトルネックを最小化し、過剰な代謝負担を防ぎ、有毒な中間体の蓄積を回避するのに役立つ。このようなプログラムの同定は困難であるが、その理由の一つは、遺伝子発現プログラムの大規模で多次元的な空間を系統的に探索するツールがないためである。
CRISPRa/iシステムでこの課題に対処するには、遺伝子発現の調整が可能で信頼性の高い制御が必要であり、そのためには細菌宿主用の予測可能なガイドRNA (gRNA)の設計ツールに必要となる。フォールディング・エネルギー予測、細胞ベースのスクリーン、機械学習を用いたgRNA設計において大きな進展があったが、これらの方法は主に哺乳類細胞における遺伝子編集アプリケーションに適用されてきた [*3,4]。Cas9の活性のオフターゲット編集を最小限に止めるために改良されたgRNAを用いた調整可能なCRISPRiの一般的な設計戦略は、哺乳類と細菌の両方のシステムで報告されている。しかし、多くの細菌CRISPRaシステムは、構造化要素を追加したgRNAを使用して、効果的なgRNA機能のデザインルールがアプリケーションや生物間で一般化できるかどうかは不明である。
[*3] 2017-04-21 sgRNAの最適設計:CRISPR/Cas9の活性を最大限にオフターゲット編集を最小限に
[*4] 2022-01-31 CRISPR-Cas9の切断に対して抵抗する標的部位の編集を,gRNAの二次構造を改変することで実現
米国の研究チームは今回、細菌において、CRISPRaによる多重経路の多重遺伝子の発現制御を実現するためのガイドRNA設計を可能にするその構造の特性を明らかにした。
CRISPRaシステムに、scaffold RNA(scRNA)と呼ばれるヘアピン配列を拡張した改良型sgRNAを用いて、転写活性化因子SoxSをプロモーターの上流にリクルートする。このリクルートにより、弱い最小プロモーターが活性化され、標的遺伝子の高発現を実現する。
CRISPRaシステムを最適化するために、熱力学的および動力学的なガイドRNAのフォールディング・パラメーターのセットを分析し、最も安定なscRNA構造と活性なscRNA構造を隔てるエネルギー障壁の大きさが最も大きな影響を与えることを同定した [Fig. 1引用左下図 [*]とFig. 2引用右下図 c/d 参照]。
この単一の動力学的パラメーターによって、CRISPRaによる遺伝子発現活性化の変動の約80%を正確に予測することが可能になった。一方で、これまでのガイドgRNA計算ツールでは、細菌における効果的なCRISPRaのためのscRNAを同定できないことも明らかになった。
この単一の動力学的パラメーターによって、CRISPRaによる遺伝子発現活性化の変動の約80%を正確に予測することが可能になった。一方で、これまでのガイドgRNA計算ツールでは、細菌における効果的なCRISPRaのためのscRNAを同定できないことも明らかになった。
また、このパラメータはRNA配列に内在することから、今回到達した計算論的アプローチは、CRISPRaの広範な応用へと一般化できると期待される。
高活性で互いに直交するscRNAsから出発して、scRNAのスペーサー配列を切断することにより、遺伝子活性化の定量的予測可能なバリエーションを生み出す戦略により、同時に複数のプロモーターから独立してCRISPRaの可変性を指示する多重プログラムの設計可能になる。これらのCRISPRaプログラムのコンビナトリアル・セットを適用して、大腸菌において貴重なバイオプテリンやオリゴ糖分子を生産する人工代謝経路を設計した。これらの多重遺伝子プログラムから生産性の高い変異体をスクリーニングすることは、効率的な微生物工場を工学的に樹立する簡便なアプローチであり、事実、高力価を実現する酵素発現の組み合わせを同定するに至った。
[*]
Fig. 1: 構造ベースのガイドRNA (scRNA) 設計と合成プロモーターにより、調整可能な (tunable) CRISPRaによるデザインスペースへのマッピングを可能にする。
scRNA配列の計算機解析により、CRISPRaの最も安定な構造と活性構造との間の変換速度を記述する速度論的パラメーターが同定され、このパラメーターを用いてスクリーニングされたscRNAは、一連の合成プロモーターからの細菌発現を予測通りに活性化した。さらに、scRNAのスペーサー配列を切断することにより、これらのプロモーターの活性化を調整し、再びその有効性を計算で検証することで、各プロモーターにおける活性化レベルの組み合わせが可能になる。プロモーターは、代謝経路を含む選択された出力ORFと組み合わせることができる。パスウェイ遺伝子の発現を制御するこの方法は、CRISPRで活性化された発現レベルのコンビナトリアルライブラリーを用いて、代謝工学のためのパスウェイデザインスペースのプロファイリングを可能にする。
コメント