[出典] "Simulation of CRISPR-Cas9 editing on evolving barcode and accuracy of lineage tracing" Liu F, Zhang X, Yang Y. Sci Rep 2024-08-19. https://doi.org/10.1038/s41598-024-70154-7 [所属] Baylor College of Medicine, U Houston - Clear Lake.
米国の研究チームが細胞系譜追跡の精度向上を目指して、細胞系譜を追跡するための標識であるバーコード上のCRISPR-Cas9編集と、細胞分裂に伴うDNA二本鎖切断(DSB)からの修復プロセスを模倣したシミュレーションプログラムを設計した。
細胞系譜追跡技術は、発生生物学から生まれ、造血や癌細胞の進化・不均一性などの研究へと展開されてきた。その間、配列バーコードをベースとする細胞の標識技術とscRNA-seqの融合 [Nat Rev Genet, 2020-03-21]を介したハイスループット化と多重化が進み、CARLIN (CRISPR Array Repair LINeage tracing) [*1]のような、生体内でクローン動態を包括的の捉えることを可能としたプラットフォームも登場した。しかし、捕捉可能な細胞集団の偏りや、バーコード標識の不完全性など技術上の難しさが未だ残っている。また、グランドトゥルースやベンチマークとなる系統樹がないため、系統樹再構築法の精度を定量的に評価することが難しい。
研究チームは、シミュレーションによる精度評価を進めるにあたり、これまでの単純化されたモデルと異なり、冒頭のように純粋に確率的なシミュレーションプログラムを設計した。このフレームワークでは、バーコードはランダムな部位で切断され、その速度はCRISPR-Casシステムの活性を誘導する試薬(ドキシサイクリン)によって制御される。確率的過程として、DSB修復により、以下のイベントがそれぞれ一定の確率で発生すると仮定した:
- 大きなセグメントの欠失、ヌクレオチドの挿入、ヌクレオチドの置換と欠失。
- 各編集イベントの後、細胞内のDSB修復機構により、バーコード断片が再結合され、CRISPR-Cas9編集が繰り返される。
- この編集は細胞分裂とともに進行する。
- 細胞はすべてラベル付けされ、「真の」系統樹を捉えることが可能である。
シミュレーションプログラムは、完全または部分的な二項系統樹を扱うことができ、非分裂細胞や死んだ細胞も系統樹に含めることができる。
その上で、系統樹のリーフのレベルでバーコードをサンプリングし、系統を再構築し、この系統を「真の」系統樹と比較し、精度を推定する。様々なパラメータ設定の下で、異なる系統再構築アルゴリズムによるシミュレーションを行い、また、2つの独立したバーコードを用いたシミュレーションも行い、系統追跡の精度に影響を与える要因を探った。
シミュレーションの結果、細胞運命の正確なマッピングには、サンプリングサイズ、バーコードの長さ、複数のバーコードの利用、インデル生成の確率、Cas9の活性などのが要因として重要であることが明らかになり、実験的観察から推測される合理的な仮定を検証した。
前述のような多くの要因の中で、サンプリングサイズとインデルの生成確率が、特に、系統追跡の精度に影響する2つの主要な要因であることがわかった。また、細胞分裂の初期世代における大きなセグメント欠失が、細胞系譜系統樹の正確性に大きな影響を与える可能性が示された。
ここで実現したシミュレーションは、CARLINやDARLIN [*2]のような新世代の系統追跡モデルの使用条件の決定や最適化に役立つと考えられる。
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