[出典] "Correction of exon 2, exon 2-9 and exons 8-9 duplications in DMD patient myogenic cells by a single CRISPR/Cas9 system" Lemoine J [..] Bovolenta M, Rochard I. Sci Rep. 2024-09-11. https://doi.org/10.1038/s41598-024-70075-5 [所属] Genethon, U Paris-Saclay, ADLIN Science, Sorbonne U

 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、X連鎖性潜性遺伝性疾患であり、筋力低下と歩行障害をもたらすが、その原因はジストロフィン遺伝子の変異である。ジストロフィン遺伝子のエクソン重複は、DMD患者によく見られるタイプの変異である。

 Genethonなどフランスの研究チームは、DMD遺伝子のエクソン2 (Dup2)、エクソン2-9 (Dup2-9)、エクソン8-9 (Dup8-9) の重複を有する患者の筋原細胞において、sgRNAペアに依存することのない重複除去を試みた。

 研究チームは、患者間に高頻度で共通するイントロン領域を標的とする高活性な単一のsgRNA [*1]とCRISPR-Cas9の複合体(RNP)をヌクレオフェクションすることで、余分な重複領域の除去を試みた。候補sgRNAsの中で、研究チームの命名によると、Dup2 および Dup2-9の修正にはsgRNA3を選択し、Dup8-9の修正にはsgRNA-Aを選択した。

 筋原細胞の免疫染色からジストロフィンタンパク質のレスキューが、また、DMD細胞のRNA-seqからジストロフィン関連経路の遺伝子のレスキューが、確認された。オフターゲット効果については候補部位を検証し、遺伝子座に異常な遺伝子編集が発生しないことも、確認された。さらに、DMD遺伝子のマルチエクソン重複を、重大なオフターゲット効果を伴わずに欠失させることができることも、実証された。

 本研究は、これまでのエクソンスキッピング療法 [*2] では対応されてこなかった様々な大きさの重複を有するDMD患者に対する潜在的な治療アプローチとして、単一のCRISPR-Cas9 RNPによる遺伝子編集の安全性と有効性が有望であることを示した。

[*1] 先行研究における単一のsgRNAによるジストロフィン遺伝子の重複解消

 Leidenのデータベースによると、エクソン重複はDMDのORFにフレームシフトを引き起こし、翻訳の早期終止をもたらす突然変異が全体の10-15%に相当する。興味深いことに、DMDのエクソン重複は、完全長のジストロフィンに戻すことが可能な舞台を提供する。これは、当初、エクソン2の重複を有するマウスモデルにおいてアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いることで実証され、その後、単一のsgRNAを用いるCRISPR/Cas9システムによる重複解消が実証された:不死化筋芽細胞におけるエクソン18-30 [Am J Hum Genet, 2016]とエクソン2 [Mol Ther Nucleic Acids, 2017];iPS細胞から分化した心筋細胞におけるエクソン55-59 [Sci Adv, 2018];初代筋芽細胞におけるエクソン18-25 [Gene Ther, 2022] とエクソン3-16 [Sci Rep, 2022]

[*2] エクソンスキッピングにより重複を解消する治療薬

 ジストロフィン遺伝子における特定の重複を有する患者の治療薬としてASOを利用した4つのエクソンスキッピング療法が承認されている(括弧内は標的重複エクソン):エテプリルセン(エクソン51)、ゴロジルセン(エクソン53)、ビルトラルセン(エクソン53)、カシメルセン(エクソン45)。これらの治療薬はいずれもエクソン1個をスキップさせ、DMD患者の約30%を占めるエクソン45、51、53の変異を有する患者の治療に使用できる。今回のアプローチは、これらの治療対象にならない重複、特に、複数エクソンの重複、を有する患者に対する治療法として、有望である。