- 何百もの研究論文で、査読者が個人的利益のためにテンプレートを使って素早く報告書を作成している形跡がある。
[出典] "Duplicated phrases in peer review draw scrutiny (Suspicious phrases in peer reviews point to referees gaming the system)" Brainard J. Science 2024-09-13. https://doi.org/10.1126/science.adt0784

 セビリア大学の研究者であるMaria Ángeles Oviedo‑Garcíaは、いくつかのジャーナルが論文と一緒に発表している査読を見始めたとき、同じような曖昧で一般的なフレーズが何度も出てくることに気付いた。例えば、「要旨では、著者は科学的発見をもっと加えるべき」や「抄録でも序論でも、研究の新規性と明確な応用について論じるべき」である。

 Oviedo‑Garcíaは最終的に、2021年から今年(2024年)にかけて複数の研究分野にわたる37のジャーナルで作成された263本の疑わしい査読を特定し、また、1人の査読者が56本の査読で重複したフレーズを使っていたとScientometrics 誌出版論文 [*]で報告した。
[*] "The review mills, not just (self-)plagiarism in review reports, but a step further" M. Ángeles Oviedo-García. Scientometrics 2024-08-01. 

 Oviedo‑Garcíaをはじめとする研究公正research integrity)の専門家たちは、査読者がテンプレートを使って短時間で安易に査読を作成したのではないかと疑っている。査読は、履歴書に業績として書くことができ、専門家としての評価を高めることができる。さらに露骨な査読者もいたようだ(何人かの査読者は、著者に自分の論文の引用を含めるよう求め、何人かの著者はそれに応じた)。

 Oviedo-Garcíaが分析した査読は、MDPIのジャーナルにほぼ独占的に掲載されている。 MDPIは、著者の同意があれば、多くの論文と一緒に査読を掲載している(同意があれば査読者の名前も掲載される)。 スイスに本社を置くこの非上場企業は、すべての論文をオープンアクセスで出版し、著者に料金を請求し、迅速な出版を約束している。MDPIはまた、他のオープンアクセス出版社と同様、MDPIは査読者に将来の出版料に充当できるクレジットを提供している。

 MDPIは声明の中で、Oviedo‑Garcíaが1月のブログ投稿で最初に指摘した84本の論文査読から調査を開始したと述べた。これまでのところ、32本の論文が出版後の再審査を必要とし、37本が品質基準を満たしていることが判明した。MDPIはまた、論文を評価した10人の査読者とその所属機関に連絡し、「我々の懸念を直接伝えた」と述べた。

 Oviedo‑Garcíaが指摘した56本のレビューを執筆した査読者は、Science 誌に電子メールにて「MDPIがレビューをより一貫性のある明確なものにするため、構造化されたフォーマットに従うよう要請し、それに従っただけであり、査読は真正に行われ、MDPIは該当する論文を撤回していない」、「Oviedo‑Garcíaは、査読で扱われた主題の専門家ではない」と述べている。

 疑わしい査読は、他の研究者も発見している。データサイエンティストのAdam Dayは2022年に、Sage出版社の6万7000本の論文の約1%について、重複した文章を含む査読があったと報告している。(DayはSage出版社の社員としてこの研究を行ったが、現在は研究論文の不正を検出するソフトウェアを開発するClear Skies社を経営している)。Science 誌がRetraction Watchのデータベースを調査したところ、2020年から2021年にかけて、査読に問題があったために撤回された論文が898件から2,620件に急増していた。

 MDPIによれば、2022年以降、フェイク(fake)査読を検出するための対策を強化している。これには、査読者が使用したテンプレートにフラグを立てるソフトウェアや、査読者が自分の論文の引用を勧めた場合にフラグを立てるソフトウェアなどが含まれる。2023年には、3万件以上の査読を「質が不十分で、MDPIの査読者ガイドラインに準拠していないため」却下したと、同社は声明の中で述べている。

 インペリアル・カレッジ・ロンドンの社会人類学者、Kirsten Bellによれば、フェイク査読を心配する声は真摯に受け止めるべきであるが、フェイク査読の自動検出は困難であり、専門家でさえ不正査読の特定に苦慮している。Bellは、査読を抜本的に改善するには、査読者の不足を解消するなど研究論文の発表と査読のシステム自体を見直す必要があるとしている。