[出典] "Expanding the CRISPR base editing toolbox in Drosophila melanogaster "  Clark M [..] Maselko M, López Del Amo V. Commun Biol. 2024-09-12. https://doi.org/10.1038/s42003-024-06848-5 [所属] Macquarie U, U Texas Health Science Center.
 
 CRISPR塩基エディター(BEs)によって、DNAに点変異を正確に導入することが可能になり、その中で、シトシンベースエディター(CBE)はC-to-Tへの転位を触媒する。CBEは、細胞培養やマウスなどの生物では十分に研究されているが、昆虫のDNA塩基編集についてはほとんど知られていない。

 オーストラリアと米国の研究チームが今回、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )を対象に、アクチンプロモーターでユビキタスに発現、または、nanos プロモーターで生殖細胞系列で発現させた3種類のCBEの生殖細胞系列編集率を評価した。

 その結果、ラット由来シトシンデアミナーゼAPOBEC1(rAPO-1)は、高い塩基編集率(〜99%)を示し、indelが検出されなかいことを、同定した。重要なことに、この極めて高い効率は、25℃における [*]CBEの4つの伝達様式すべてにおいて維持された。

 また、CBEの父方または母 方への伝達を変化させることにより、編集効率と精度の性差を同定し、ベースエディター構成要素の伝達を考慮することの重要性を示した。

 さらに、β-チューブリン(β-Tub)遺伝子座または性致死(sxl)遺伝子座を標的に停止コドンを導入するように設計した2つのgRNAを含む2つの追加的なgRNA系統を作出・利用することで、CBDを雄性不稔および雌性致死を引き起こすことが可能なことを実証し、次世代精密誘導不妊昆虫法 (precision-guided sterile insect technique: pgSIT)の新たな道を開いた。

 本研究は、ハエにおける効率的な塩基編集のためのプロモーター選択と性特異的伝達の重要性を強調するとともに、昆虫における将来の遺伝子バイオコントロール設計のための新たな知見を提供した。

[*]
 
 本論文準備中に、モデル生物であるD. melanogaster において生殖系列を標的としたCBEとABEのトランスジェニック発現が2つの研究によって証明された [1, 2]。Thakkarら [1] は、ヒト細胞培養で以前に最適化された第一世代のCBEとABEを用いてebony    遺伝子を標的とし、平均生殖細胞系列編集率は70%であったと報告している。Dollら [2] は、Rattus norvegicus     APOBEC1の進化型(CBEevoAPOBEC1)とPetromyzon marinus cytidine deaminase 1(CDA1)タンパク質の進化型(CBEevoCDA1)を評価した。ここで、CBEevoCDA1を用いた場合、生殖細胞系列への伝達効率は99%程度であったのに対し、CBEevoAPOBEC1を用いた場合、塩基編集率は70~95%と低かった。

 興味深いことに、どちらの研究も特定の状況で高い編集率を達成するために28~29℃の条件で行われたが、これは、ショウジョウバエの最適生存温度と好適温度の25℃に対して高温である。そこで研究チームは、2つの異なるプロモーターを用いて、25℃で高い編集率(90-100%)を示す異なる塩基編集ドメインを同定しようとした。

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