- その未来は、感染予防、ワクチン接種、抗生物質の乱用抑止、そして、新たな抗菌剤の開発によって回避可能
[注] 薬剤耐性/抗生物質耐性/抗菌薬耐性/ (antimicrobial resistance: AMR)
[注] 薬剤耐性/抗生物質耐性/抗菌薬耐性/ (antimicrobial resistance: AMR)
[出典]
- 論文 "Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990–2021: a systematic analysis with forecasts to 2050" GBD 2021 Antimicrobial Resistance Collaborators (Naghavi M, Vollset SE, Ikuta KS, Swetschinski LR, Gray AP, Wool EE, Aguilar GR, Mestrovic T, Smith G, Han C et al.). Lancet 2024-09-16. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01867-1
- コメント "Global burden of antimicrobial resistance and forecasts to 2050" Kariuki S. Lancet 2024-09-16. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01885-3
- NEWS "40 million deaths by 2050: toll of drug-resistant infections to rise by 70%" Naddaf M. Nature 2024-09-17. https://doi.org/10.1038/d41586-024-03033-w
- Expert Voices "The coming microbial crisis: Our antibiotic bubble is about to burst" Baumler AJ. Science. 2024-09-19. https://doi.org/10.1126/science.ads3473
[背景]
AMRは21世紀における世界の公衆衛生上の重大な課題である。以前の研究では、2019年のAMRの世界的および地域的な負担を定量化し、その後、WHOのいくつかの地域について、国ごとにさらに詳細な推計を提供する報告が発表された。しかし、過去の傾向と将来の予測を網羅した、各地域におけるAMRの負荷の包括的な推計を行った研究は未だない。
2014年時点でのAMRに関するレビューは、2050年までにAMRにより1000万人の死亡が起こりうると予測した。この予測は科学的な批判を浴びながらも、AMRを21世紀の健康に対する最も差し迫った脅威の一つとして位置づける一助となった。それ以来、WHOは2015年のAMR世界行動計画にコミットし、AMRは2016年のハイレベル国連総会の焦点となり、AMRに特化した指標が持続可能な開発目標に盛り込まれた。しかしながら、各国の行動計画の実施と資金調達には大きなばらつきがあり、AMRの負担を軽減するための進捗は不透明である。
[方法]
Antimicrobial Resistance Collaboratorsは今回、1990年から2021年までの204の国・地域における22の病原体、84の病原体と薬剤の組み合わせ、11の感染症候群について、細菌性AMRに起因・関連する全年齢および年齢別の死亡数と障害調整生存年(Disability-adjusted Life Year; DALY)を推定した。死因、入退院、微生物、医薬品販売、抗生物質使用などなどの多様かつ広範なデータを収集・利用した (5億2,000万件の個人記録または臨床分離株と19,513調査地・年をカバーしている)。
[注] なお、今年(2024年)これまでに、350万人以上が感染症で亡くなっている[The Global Antibiotic Research & Development Partnership (GARDP) ホームページから引用した (2024-09-18取得)右図参照]
[注] なお、今年(2024年)これまでに、350万人以上が感染症で亡くなっている[The Global Antibiotic Research & Development Partnership (GARDP) ホームページから引用した (2024-09-18取得)右図参照]
統計的モデリングを用いて、データのない地域を含む全地域のAMR負荷を推定した。すなわち、敗血症を含む死亡数、感染症候群に起因する感染症死亡の割合、感染症候群に起因する感染症死亡の割合、対象とする抗生物質に対して耐性を示す病原体の割合、およびこの耐性に関連する死亡または感染期間の超過リスクを推定し、これらの構成要素を用いて、AMRに起因・関連する疾病負担を推定した。
さらに、3つのシナリオを設定して、2050年までのAMR負荷を地球規模および地域ごとに予測した:最も可能性の高い未来を確率論的に予測したレファランス・シナリオ;グラム陰性病原体を標的とする将来の薬剤開発を想定したグラム陰性薬シナリオ;医療の質の向上と適切な抗菌薬へのアクセスを将来的に想定したより良い医療シナリオ
[結果]
[注] 出典では、テキスト中の各数値に信頼性に関するデータも付されているが、本記事中では省略
2021年には、細菌性AMRに起因する死亡(AMR起因死)1,400万~1,400万人を含め、4,700万~7,100万人の死亡が細菌性AMRに関連(AMR関連死)していると推定された。過去31年間のAMRによる死亡の傾向は、年齢や場所によって大きく異なっていた。1990年から2021年にかけて、AMRによる死亡は5歳未満の小児では50%以上減少したが、70歳以上の成人では80%以上増加した。
AMR関連死とAMR起因死のいずれにおいても、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) による死が世界的に最も増加した(1990年の関連死261,000人と起因死57,200人から、2021年には関連死550,000人と起因死130,000人へ)。グラム陰性菌では、カルバペネム系抗生物質に対する耐性が他のどの抗生物質クラスよりも増加し、AMR関連死は1990年の619,000人の関連死から2021年には1,030,000人へ、AMR起因死は1990年の127,000人の2021年には216,000人の起因死へ、と増加した。なお、2020年と2021年には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以外の感染症が顕著に減少した。
今回の2050年予測は以下のとおり:
- 現在から2050年までに世界全体で、AMR起因死とAMR関連死がそれぞれ、800〜2,200万人、1,000〜9,100万人、と予測された。
- 2050年の全年齢AMR死亡率が最も高い地域は、南アジアとラテンアメリカ・カリブ海地域と予測された。
- AMR起因死の増加は、過去(1990年から2021年)の傾向が続き、70歳以上で最も大きくなると予測された。
- レファランス・シナリオでは、2050年に世界で、AMR起因死191万人、AMR関連死 822万人、に達する可能性がある [Nature NEWS記事の挿入図参照]。
- グラム陰性薬シナリオでは、AMRによる死亡を防ぐためのグラム陰性薬パイプラインの開発により、1,100万人のAMRによる死亡が回避される可能性がある。
- より良い治療シナリオでは、すべての年齢層で、重症感染症に対するより良い治療と抗生物質へのアクセスの改善により、2025年から2050年の間に累積で9,200万人の死亡が回避される可能性がある。
[見解]
- 今回の調査結果は、5歳未満のAMRによる死亡の減少が示すように、感染予防の戦略であるWASH(Water / 水;Sanitation / 衛生設備;Hygiene /衛生促進)の重要性を示している。同時に、急速に高齢化が進む国際社会とともに、70歳以上の高齢者におけるAMR負担の懸念すべき傾向を強調している。
- 地域や年齢によるAMRの負荷のばらつきが大きいことを考えると、2050年に予測されるAMRによる死亡者数を軽減するためには、感染予防、ワクチン接種、農業や人間における不適切な抗生物質の使用の最小化、そして、新しい抗生物質の研究などを組み合わせた介入が重要である。
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