[出典]
論文 "Mapping glycoprotein structure reveals Flaviviridae evolutionary history" Mifsud JCO [..] Grove J. Nature 2024-09-04. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07899-8 [所属] U Sydney, MRC-University of Glasgow Centre for Virus Research, 東大医科研, Laboratory of Data Discovery for Health Limited (Hong Kong)
NEWS "Where did viruses come from? AlphaFold and other AIs are finding answers" Callaway E. Nature 2024-09-16. https://doi.org/10.1038/d41586-024-02970-w
ウイルスの進化はこれまで、主として、遺伝子配列やゲノム配列の比較に基づいて、推定されてきた。ウイルスの遺伝子・ゲノム配列は、遺伝情報をRNAで維持しているRNAウイルスの場合は特に、他の生物の遺伝資源を取り込みつつ高速で進化することから、極めて多様であり、深い相同性を探っていくことが求められる。一方で、それらがコードするタンパク質の構造はゆっくりと進化する傾向があることから、構造ベースの系統解析によって、ウイルスの進化の安定した解釈が可能になる可能性がある。しかし、ウイルス全般でなくてもウイルスの特定の科全体のタンパク質の構造を比較することは事実上不可能であった。この課題を、豪・英・日・中の研究チームは、AlphaFold2 とタンパク質を対象とする大規模言語モデル (LLM)であるESMFoldにより関心のあるタンパク質構造を予測することで、解決した。
研究チームは今回、極めて多様なエンベロープ型ポジティブセンスRNAウイルスの一種であり、
ヒトの重要な病原体(例えば、デングウイルス、ジカウイルス、C型肝炎ウイルス)やその他の動物(例えば、古典的豚熱ウイルス、牛ウイルス性下痢症ウイルス)のほか、ヒトの健康に新たな脅威をもたらす多くのウイルスを含んでいるフラビウイルス科 [右図参照]を対象に、ウイルスの宿主細胞への侵入に必須でありながら、まだ同定そしてまたは分類されていない糖タンパク質に注目した。

- AlphaFold2とESMFoldを使って、458種のフラビウイルスから33,000以上のタンパク質の予測構造を生成した。その中で、100種以上の未知の糖タンパク質が発見された。
- ウイルスの膜融合蛋白のほとんどが二つのカテゴリー(クラス I とクラス II) に分類されるが、オルソフラビウイルス属のほとんどの種に加えて、最近発見され分類学上の位置付けが未だ定まっていないジンメンウイルスとラージゲノムフラビウイルス(LSF)において、E糖タンパク質に相同なクラスIIに属するE糖タンパク質に相同なタンパク質が見出された。
- また、ヘパシウイルス属、ペスチウイルス属、ペギウイルス属のE1E2間の構造および配列の明確な類似性が明らかになった。すなわち、C型肝炎を含むヘパシウイルス属が、(Pestiviruses: 古典的豚熱ウイルスやその他の動物病原体を含むペスチウイルス属と、同様の機構を介して細胞に感染すること、また、E1E2が脊椎動物の感染と厳密に相関していること、が明らかになった。しかし、E1E2とE糖タンパク質との間には相同性が見られないことから、新たな融合機構が存在することが示唆された。
- さらに、いくつかのフラビウイルスにおいて、細菌から取り込んだことが示唆される酵素が発見された。
本研究において、タンパク質構造予測を利用することで、細菌遺伝子の取り込みと潜在的な遺伝子間組み換えによって特徴づけられるフラビウイルス科の複雑な進化の歴史が明らかになった。
[図一覧]
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