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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] Preview "Exploring RNA-guided DNA scissors in eukaryotes: Are Fanzors counterparts of CRISPR-Cas12s?" Omura SN (大村紗登士), Nureki O (濡木 理). Cell. 2024-09-19. https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.08.022

 CRISPR-Cas9によるヒトゲノム編集のパイオニアの一人であるFeng ZhangはNCBIのEugene V. Kooninらと共同で2021年9月9日にScience 誌から「CRISPR-Cas様システムが真核生物にも存在する」ことを報告した。3種類のトランスポゾンにコードされたタンパク質 (IscB、IsrB、およびTnpB)が、天然に存在し、再プログラム可能なRNAガイドDNAヌクレアーゼであることを示し、トランスポゾンにコードされているRNA誘導型のヌクレアーゼ群OMEGA (Obligate Mobile Element Guided Activity)と命名し、ガイドRNAの機能を帯びていることが示唆されるncRNAωRNAと命名した [1]。また、OMEGAシステムの中で、TnpBタンパク質はCRISPR-Cas12エフェクターと同様のRuvC様ヌクレアーゼドメインを含んでおり、TnpBからCas12へと進化してきたことが示唆された。TnpBは実際、Cas12と同様に、ωRNAと会合し、ωRNA誘導DNA切断活性を示した [1] 。Vilnius UniversityのVirginijus Siksnysらのグループも、独立に、2021年10月日に同様の成果をNature誌から報告した [2]。ここまでの発見が、Fanzorと呼ばれる真核生物のRNA誘導DNAエンドヌクレアーゼの構造・機能解析の基礎を築いた。Fnanzor1ファミリーおよびFanzor2ファミリーに分類されるFanzorタンパク質は、10年前にTnpBの遠縁のホモログとして同定されていた [3]

 Fanzorsは原生生物、藻類、真菌類、真核ウイルスを含む様々な真核生物ゲノムにコードされている。Fanzorsの配列とサイズは多様であるが、RuvC様ドメインを含むコアドメイン構造は共通しており、最近、Fanzorがオープンリーディングフレームの3′末端にωRNAをコードし、TnpBで観察されたのと同様にωRNA誘導DNA切断活性を示すことが明らかになった [4, 5] 。これらの保存された特性は、原核生物のTnpBから真核生物への水平遺伝子転移が、Fanzorへの進化と多様化を促したことを示唆している[6]

 原核生物では、TnpBはCRISPR-Cas適応免疫に関与する機能的にも構造的にも多様な12種類のCas12エフェクターに進化したことから、(1)真核生物のFanzorsはTnpBから同様の分子進化を遂げたのか、(2)Cas12の著しい構造多様性はFanzorsにも存在するのか、(3)FanzorsはCas12と関連しているのか、という疑問が生じた。Cell誌の本号で、Xu、Saitoら(責任著者Feng Zhan)[7]は、13の機能状態にある3種のFanzor1のクライオ電顕構造を報告し、FanzorとCas12sの間で共有される機構的特徴と異なる機構的特徴を明らかにした。

 Fanzorsの配列とサイズの多様性に鑑み、Xu, Saitoらは藻類のGuillardia thetaGtFz1)、真菌のSpizellomyces punctatusSpuFz1)、および菌類寄生虫のParasitella parasiticaPpFz1)由来の3種類のFanzor1を対象とする解析を進めた。

 これらの酵素とその同族であるωRNAおよび標的DNAとの複合体のクライオ電顕構造から、タンパク質のサイズやωRNAの長さには大きな違いがあるものの、ドメイン構成や核酸結合様式は高度に保存されていることが明らかになった [出典のFigure 1参照 ]。3つのFanzor1タンパク質はすべて、認識(REC)ローブとヌクレアーゼ(NUC)ローブからなる二葉構造を採用し、ωRNA-標的DNAヘテロ二重鎖は、TnpBとCas12の構造で観察されたように、RECローブとNUCローブの間の中央溝内に収容される。さらに、ωRNAスキャフォールドはそれぞれのFanzor1タンパク質によってほぼ同じ方法で認識される。

 これらの特徴が保存されている一方で、3つのFanzor1タンパク質の構造には違いがみられた。その中でも最も違いが顕著なのはRuvC触媒中心であった。通常、Fanzor、TnpB、Cas12のRuvCドメインは、3つの負電荷残基からなる高度に保存された触媒中心(Asp-Glu-Asp)を持つ。しかし、GtFz1では3番目のAspがAsnに置き換えられていた。そこで、同等のAspからAsnへの変異をSpuFz1に導入したところDNA切断活性が向上し、GtFz1 に逆の変異を組み込んだところ、活性が低下した。このことは、RuvC触媒中心の3番目のAspをAsnに置き換えることが、Fanzorの活性を高める一般的な工学的戦略である可能性を示唆している。

 もう一つの注目すべき構造の違いは、PpFz1にFanzor-RuvC-Insertion(FRI)ドメインが存在することである。このドメインはタンパク質のフォールディングと輸送を制御するシクロフィリン(cyclophilin: CYP)タンパク質との結合を仲介することから、FRIドメインは本来の宿主生物におけるPpFz1の生理学的機能に重要であると考えられる [Figure 1参照]。FRIドメインと結合したシクロフィリンの機能を決定するためには、さらなる生化学的特性解析が必要であるが、GtFz1  とSpuFz1  で観察されたωRNA足場部位の近くに局在していることから、PpFz1  -ωRNA複合体の全体構造を安定化させる役割を果たしていることが示唆される。

 Xu, Saitoらはさらに、Fanzorヌクレアーゼが活性化する際に起こる構造変化を評価した。異なる機能状態における一連のSpuFz1構造から、RuvCドメイン内に「リッド」と呼ばれるループ領域があり、RuvC活性部位内での基質DNAの結合を制御していることが明らかになった。15bpのωRNAと標的DNAのヘテロ二重鎖の形成によって引き起こされるリッドの下向き再配列が、RuvC活性部位への基質DNAの結合に必要な空間を作り出す。この局所的な再配列はいくつかのCas12酵素でも同様に観察され、TnpBホモログのDNA切断活性においてリッドの役割が保存されていることを強調している。

 これらのFanzor1のクライオ電顕構造によって、Cas12に関するいくつかの先行研究とともに、真核生物と原核生物におけるTnpBの進化を一望することが可能になった。

 FanzorとCas12sは、最小限のTnpB足場、核酸結合界面、RNAガイドDNA切断活性に不可欠ないくつかの構造再配列を共有している。また、両酵素ともTnpBに比べてRECドメインが拡大されており、Cas12にとっては、より長いガイド-ターゲットヘテロ二重鎖の認識を可能にし、CRISPR-Casの適応免疫に必要な標的特異性を確保している [8]。対照的に、Fanzor1の拡張RECドメインは、RuvC活性部位にロードされた標的DNAのRループ安定化に寄与する。すなわち、SpuFz1 は、TnpBやCas12とは異なり、拡張RECドメインとの相互作用によって安定化されたRuvC活性部位内に二本鎖DNAを収容することを発見した。

 もう一つの顕著な構造の違いが、ωRNA(またはcrRNA)足場構造に見られる。TnpBとほとんどのCas12では、これらのRNAはガイドのすぐ上流に保存されたシュードノット構造を持つが、Fanzor1のωRNAにはこの特徴がなく、代わりに5′末端に高度に保存されたステム-ループ構造を形成する。これらの観察から、FanzorはCas12とは異なる文脈で、拡張されたRECドメインとユニークなωRNA足場を獲得したことが示唆され、真核細胞の複雑なクロマチン環境における機能に関係している可能性がある。

 Fanzorの発見により、RNAガイドDNAエンドヌクレアーゼの生物学的役割が、あらゆる生物界にわたって広範囲に及ぶことが明らかになった。Xu、Saitoらは、Fanzorの構造についての理解を大きく前進させたが、真核生物におけるこれらのタンパク質の正確な生物学的機能については、まだ解明されていない。

 真核生物と原核生物におけるTnpBホモログの複雑な進化の軌跡と多様な生物学的機能をさらに明らかにするために、Fanzorの役割を解明することが期待される。

[参照crisp_bio記事そしてまたは論文]
  1. OMEGA (Obligate Mobile Element Guided Activity) [20211010更新] トランスポゾンにコードされているIscBタンパク質は,RNAにガイドされてヒトゲノムを切断し,藻類にも存在する;"The widespread IS200/605 transposon family encodes diverse programmable RNA-guided endonucleases" Altae-Tran H, Kannan S [..] Koonin EV, Zhang F. Science 2021-09-09. 
  2. 2021-10-10 トランスポゾンに関連するTnpBは,プログラム可能なRNAガイドDNAエンドヌクレアーゼである;"Transposon-associated TnpB is a programmable RNA-guided DNA endonuclease" Karvells T  [..] Siksnys V. Nature. 2021-10-07. 
  3. "Homologues of bacterial TnpB_IS605 are widespread in diverse eukaryotic transposable elements" Bao W, Jurka J. Mob. DNA. 2013; 4:12 
  4. [20230910更新] 真核生物からヒトゲノム編集可能なRNA誘導型エンドヌクレアーゼを再発見.;"Fanzor is a eukaryotic programmable RNA-guided endonuclease" Saito M, Xu P [..] Zhang F. Nature 2023-06-28. 
  5. [20230929更新] 真核生物とウイルスにも, 原核生物のCRISPR-Cas様エンドヌクレアーゼが存在する;"Programmable RNA-guided DNA endonucleases are widespread in eukaryotes and their viruses" Jiang K, Lim J [..]  Gootenberg JS, Abudayyeh OO. Sci Adv. 2023-09-27. https://doi.org/10.1126/sciadv.adk0171
  6. 2023-08-17 真核生物のRNAガイド・エンドヌクレアーゼは、シアノバクテリア酵素のユニークなクレイドから進化した; "Eukaryotic RNA-guided endonucleases evolved from a unique clade of bacterial enzymes" Yoon PH, Skopintsev P, Shi H [..] Doudna JA. Nucleic Acids Res. 2023-11-16. 
  7. 2024-09-04 真核生物由来のプログラム可能なRNAガイドエンドヌクレアーゼ"Fanzor"の多様性とDNA切断機構の構造的洞察;"Structural insights into the diversity and DNA cleavage mechanism of Fanzor" Xu P, Saito M [..] Zhang F. Cell 2024-08-28. 
  8. 2023-04-19 トランスポゾン関連タンパク質TnpB*の構造、Cas12への進化過程、および、標的DNAの切断機構を明らかに;"Cryo-EM structure of the transposon-associated TnpB enzyme" Nakagawa R, Hirano H [..] Nureki O. Nature 2023-04-05. 
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