[注] オーキシンデグロン法については、遺伝研鐘巻研究室のホームページ内の「オーキシンデグロン法 」のメニューにて「培地にオーキシンを添加するだけでAIDデグロンを付加したタンパク質を、半減期30分以下で分解することが可能になります」など、応用例も含めて紹介されている。
[出典]
論文 ”Establishment and characterization of mouse lines useful for endogenous protein degradation via an improved auxin-inducible degron system (AID2)” Makino-Itou H [..] Saga Y. Dev Growth Differ. 2024-09-21. https://doi.org/10.1111/dgd.12942 [所属] 遺伝研, 総研大, 東大
2009年に遺伝研の鐘巻研究室が報告したAIDシステム [1] は、デグロンでタグ付けされたタンパク質と、植物ホルモンであるオーキシンによって活性化されるTIR1 E3リガーゼコンポーネントという2つのコンポーネントをベースとしている。このシステムは当初酵母で確立され、次いで、哺乳類培養細胞でも機能する [1, 2, 3] ことが実証された。2020年にはAIDシステムは、TIR1の変異体/TIR1(F74G) と新たな誘導剤として機能するオーキシンアナログ(5-Ph-IAA)を用いた改良系、AID2システム、へとバージョンアップされた [4]。
AID2システムは、AIDシステムのようなリーキーな分解を示さず、極めて低濃度の誘導剤でシャープな標的分解を誘導し、細胞培養において可逆的な発現制御を可能にした。また、マウスにおいても、AID2がEGFPレポーターの分解を誘導することが確認された [4]。
内因性タンパク質を分解するツールとしては、2018年に、dTAGシステム [5]が報告され、マウスにおいて、NELFB(Abuhashem et al., 2022)、CDK2、CDK5(Yenerall et al., 2023)といった内因性タンパク質の制御に利用された。dTAGシステムでは、低分子dTAG-13を投与すると、タグを付したタンパク質が速やかに除去され、あらゆるタンパク質をノックダウンするのに非常に効果的で便利である。
dTAGシステムは一方で、細胞内因性のプロテアソーム経路に依存しているため、タンパク質はあらゆる細胞からユビキタスに除去され、細胞型に特異的なノックダウンには適用できない。dTAGシステムに対して、AID2システムは、マウスに対して外来性の植物由来因子を利用することから、TIR1(F74G) を特定の細胞に発現させることにより、組織特異的なコンディショナル・ノックダウンシステムを実現することが可能である。
dTAGシステムは一方で、細胞内因性のプロテアソーム経路に依存しているため、タンパク質はあらゆる細胞からユビキタスに除去され、細胞型に特異的なノックダウンには適用できない。dTAGシステムに対して、AID2システムは、マウスに対して外来性の植物由来因子を利用することから、TIR1(F74G) を特定の細胞に発現させることにより、組織特異的なコンディショナル・ノックダウンシステムを実現することが可能である。
研究チームは今回、ROSA26遺伝子座へのノックインマウスを含む、AID2によるタンパク質ノックダウンに有用なマウス系統を樹立した。
一つはTIR1(F74G)を発現し、もう一つはAID-mCherryを発現するレポーター系統である。また、生殖細胞特異的なTIR1株を樹立し、タンパク質のノックダウン特異性を確認した。さらに、CRISPR-Cas9を介した遺伝子編集法により、内在性タンパク質DCP2にAIDタグを導入し、TIR1(F74G)によってこのタンパク質が効果的に除去され、20時間以内にノックアウトマウスと同様の表現型が観察されることを確認した。
[引用論文そしてまたはcrisp_bio記事]
- Nishimura K, Fukagawa T, Takisawa H, Kakimoto T, Kanemaki M. "An auxin-based degron system for the rapid depletion of proteins in nonplant cells" Nature Methods 2009-11-15.
- 22017-06-11 CRISPR/Cas9とAID(オーキシン依存蛋白質分解)技術により必須タンパク質の機能を解明;Natsume T, Kiyomitsu T, Saga Y, Kanemaki MT. "Rapid protein depletion in human cells by auxin-inducible Degron tagging with short homology donors" Cell Reports, 2016-04-05.
- 32019-04-26 タンパク質の細胞内高速分解法AIDの改善;Yesbolatova A, Natsume T, Hayashi KI, Kanemaki MT. "Generation of conditional auxin-inducible degron (AID) cells and tight control of degron-fused proteins using the degradation inhibitor auxinole" Methods. 2019-04-24.
- 2020 Top 50 Life and Biologival Science Articles 12位 (Nature Communications 誌): Yesbolatova A, Saito Y, Kitamoto N, Makino-Itou H, Ajima R, Nakano R [..] Saga Y, Hayashi KI, Kanemaki MT. "The auxin-inducible degron 2 technology provides sharp degradation control in yeast, mammalian cells, and mice" Nat Commun. 2020-11-11;解説記事 "遺伝学的タンパク質除去:AID2による細胞及びマウス個体におけるタンパク質高速分解" 鐘巻研究室・分子細胞工学研究室, 相賀研究室・発生工学研究室. 国立遺伝学研究所. 2020-11-12.
- 2018-05-11 標的タンパク質を選択的かつ迅速に分解するdTAGシステム.;Nabet B[..] Gray NS, Bradner JE. "The dTAG system for immediate and target-specific protein degradation" Nat Chem Biol. 2018-03-26.
- 2021-08-05超高感度オーキシンデグロン法 (AID)を介した脊椎動物細胞における条件付きCRISPR-Cas9ノックアウト;"A super sensitive auxin-inducible degron system with an engineered auxin-TIR1 pair" Nishimura K [.] Fukagawa T. Nucleic Acids Res. 2020-09-17.
コメント