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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Clonal Lineage Tracing with Somatic Delivery of Recordable Barcodes Reveals Migration Histories of Metastatic Prostate Cancer" Serio RN [..] Spiepel A, Nowak DG. Cancer Discov. 2024-07-05. https://doi.org/10.1158/2159-8290.CD-23-1332 [所属] Weill Cornell Medicine,  Cold Spring Harbor Laboratory, U Milano-Bicocca (Italy)

 原発性腫瘍が転移部位へと転移するパターンは、まだ十分に理解されていない。米国にイタリアが加わった研究チームは今回、新たに樹立したモデルマウス(Evolution in Cancer of the Prostate: EvoCaP)において、CRISPR/Cas9をベースとする細胞バーコーディング技術とEvoTraceRと称する自ら開発した解析パイプラインを介して、転移性前立腺癌の他の臓器への転移プロファイルを明らかにした。

 前立腺癌は原発巣にとどまっている場合、生存率はほぼ100%であるが、肺、肝臓、骨へと転移すると、患者の生存率は40%以下に低下することから、前立腺癌の治療には、転移のプロセスを十分に理解することが必要である。

 EvoCaPは、骨、肝臓、肺、リンパ節への積極的な転移癌を特徴とする新たな前立腺癌モデルマウスである。12週齢のマウスに、2つの癌抑制遺伝子を欠失させ、前立腺癌の増殖と転移を促すとともに、CRISPR技術で編集可能な 「バーコード」、すなわちユニークな遺伝子マーカー、を導入する指示を含む前立腺向性ウイルスベクターを注射することで樹立した。

 その上で、EvoTraceRパイプラインを介して、バーコードを含む別個の腫瘍クローンを追跡することで、原発巣と転移巣の間の移動履歴を捉えた。
  • 原発性腫瘍には多くの前立腺癌細胞が含まれているが、ほとんどの転移は少数の攻撃的なクローンが腫瘍から骨、肝臓、肺、リンパ節に移動することから始まることが観察された。
  • ほとんどのがん細胞が一旦臓器に広がると、他の部位に転移するよりもむしろそこに留まる可能性が高く、転移先から次の転移を引き起こすのはごく少数の近縁の細胞に限られていた。
  • こうして同定した癌細胞の遊走パターンは、ヒト前立腺癌において知られている播種トポロジーと一致していた。
 本研究は、転移性前立腺癌は、そのニッチを拡大する侵襲性の(aggressive)クローンの波によって駆動される全身性疾患であり、そうでなければ原発巣や転移巣に止まる制約を克服することは稀であるという見方を支持した。
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