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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Cas9 Nickase-mediated contractions of CAG/CTG repeats are transcription-dependent and replication-independent" Larin M [..] Dion V. NAR Mol Med 2024-09-23. https://doi.org/10.1093/narmme/ugae013 [所属] UK Dementia Research Institute at Cardiff U, Centre for Integrative Genomics (U. Lausanne), Revvity (https://www.biotechniques.com/pcr-sequencing/revvity-global-life-science-and-diagnostics-company-looks-to-new-horizons-in-cambridge-and-beyond/), Division of Psychological Medicine and Clinical Neurosciences (Cardiff U)

 CAG/CTGリピート配列の異常伸長は、ハンチントン病(HD)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、脊髄小脳変性症などを含む少なくとも15種類の神経変性疾患と神経筋疾患の原因である。HDをはじめとするこうしたトリプレット病のいくつかにおいて、リピート長が長いほど発症年齢が早くなり、病気の進行も速くなることから、リピート配列を収縮させることで、疾患が治癒しないまでも、症状が改善し、発症を遅らせることができると期待されている。

 カーディフ大学のVincet Dionが率いる研究チームは以前に、Cas9 D10Aニッカーゼを単一のsgRNAを介してリピート配列へ誘導することで、リピート配列を効果的に収縮させることに成功していた。しかし、そのメカニズムは不明であった。研究チームは今回、ヒト細胞モデルを用いて、ニッカーゼによる収縮が転写に依存するのか、複製に依存するのかを検証した。その結果、転写が収縮を促進し、細胞分裂の速度とは無関係に収縮が起こることが明らかになった。すなわち、非分裂細胞におけるこのアプローチの治療可能性を示唆する結果を得た。

[背景]

 現在までに、CAG/CTGリピートを収縮させる3つの方法が用いられてきた。一つは、CAG/CTGリピートが形成する二次構造に結合する低分子ナフチリジン-アザキノロン(NA)を介するアプローチである。NAは、HD由来の線維芽細胞、異所性遺伝子座に850個のCAG/CTGリピートを持つHT1080細胞、および2種類のマウスモデルにおいて収縮を誘発した。NAが収縮を促進する原因として現在考えられているのは、NAが、リピート配列の転写によって生成される二次DNA構造を安定化し、ミスマッチ修復複合体MutSβによって処理されるというものである。

 第二のアプローチは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、CRISPR- Cas99などのプログラム可能なヌクレアーゼを用いて、リピート配列内に二本鎖切断を誘導することである。リピート配列内に生じた二本鎖切断は、Rad51依存、あるいは、一本鎖アニーリングによる相同性指向性修復によって修復されると考えられている。研究チームの先行研究において、ジンクフィンガーヌクレアーゼとCRISPR-Cas9の両方が、同程度の速度で伸長と収縮を誘導することが明らかになっており、従って、集団内の一部の細胞がさらなる拡大を示し、疾患表現型を悪化させる危険性がある。

 研究チームのCas9 D10Aニッカーゼを単一のsgRNAを用いて、リピート配列へと誘導する第三のアプローチでは、HEK293由来の細胞、患者由来のiPS細胞から誘導したアストロサイトとニューロン、およびHDのマウスモデルにおいて、効率的に収縮が誘導された。また、ニッカーゼを介した収縮は41回以上の反復を持つ対立遺伝子でのみ起こり標的以外の変異があったとしても検出限界以下であった。しかしながら、どのようにして収縮が起こるのかは不明であった。HEK293由来のモデルでは、収縮はミスマッチ修復の中心的な担い手であるMSH2のノックダウンには影響されなかった。このことは、ニッカーゼによる収縮のメカニズムは、NAやプログラム可能なヌクレアーゼによる収縮とは異なる可能性を示唆していた。

[Vincent Dionらの先行研究]
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