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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Chem-CRISPR/dCas9FCPF: a platform for chemically induced epigenome editing” Altinbay M, Wang J, Chen J, Schäfer D [..] Cheng X. Nucleic Acids Res. 2024-09-24. https://doi.org/10.1093/nar/gkae798 [所属] Goethe U Frankfurt am Main, Frankfurt Cancer Institute, U Cancer Center (UCT) Frankfurt, Johannes Gutenberg U Mainz, Heidelberg U, Institute of Biochemistry II, DKTK translational cancer network

 エピジェネティックな異常は、ヒト癌の主要なドライバー(driving factors)のひとつであり、しばしば癌に化学療法に対する耐性をもたらす。これまでに様々な低分子エピジェネティック修飾剤が報告されているが、顕著なオンターゲットおよびオフターゲットの毒性を伴うことから、前臨床試験や臨床試験からの撤退を余儀なくされてきた。このような課題に対して、CRISPR/dCas9技術をベースとするエピゲノム・エディターがエピジェネティック機構を正確に調節する強力なツールとして台頭してきている。しかし、この技術にも課題がある。外来性のエピジェネティック修飾タンパク質を共発現させることが必要であり、その準備と導入に技術的な課題があり、望ましくない副作用の可能性もある。

 ドイツの研究チームは最近、Phe-Cys-Pro-Phe(FCPF)[*]-ペプチド・モチーフでタグ付けされたCas9が、ペルフルオロビフェニル(PFB)誘導体によって特異的に標的化されることを示した。FCPFタグをdCas9に組み込み、Chem-CRISPR/dCas9FCPFと呼ばれるエピゲノム編集のための化学的誘導可能なプラットフォームを確立した。Chem-CRISPR:dCas9 Fig. 1

 様々なエピジェネティック修飾タンパク質を標的とする一連の化学阻害剤-PFBコンジュゲートを設計した。汎BET阻害剤であるJQ1に焦点を当て、c-MYC-sgRNA誘導JQ1-PFBが、c-MYCプロモーター/エンハンサーに近接したBRD4を特異的に阻害することで [Figure 1引用右図参照]、JQ1単独と比較して、c-MYCによって編成される複雑な転写ネットワークを効果的に抑制することを実証した。

 本研究のChem-CRISPR/dCas9FCPFプラットフォームは、化学的エピジェネティック阻害剤の標的特異性を著しく向上させ、スクリーンショット 2024-09-29 18.44.38ひいては、標的遺伝子の発現を効率的かつ選択的に調節することを可能とし、これまでのエピジェネティック修飾法に対して、遺伝子発現を正確に制御するための有望な代替的アプローチを提供する [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]
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