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2025-04-26 Molecular Cell 誌からの刊行された論文の書誌情報を[出典]の項に挿入し、初稿でbioRxiv 投稿から引用していた図の一部をMolecular Cell 刊行論文の図に差し替え、テキストも一部改訂した。

2024-10-06 bioRxiv 投稿に準拠した初稿
[出典] "Rapid two-step target capture ensures efficient CRISPR-Cas9-guided genome editing" Shi H, Al-Sayyad N [..] Doudna JA. (bioRxiv. 2024-10-02) Mol Cell. 2025-02-13.
https://doi.org/10.1016/j.molcel.2025.03.024 [所属] UC Berkeley, Stanford U, Haravard Medical School.

 SpyCas9は強力だが、その標的は 「NGG 」PAMに隣接する部位に限られる。より多くの配列をターゲットにするために、Kleinstiver研究室のWaltonらはSpGやSpRYのようなPAMを緩和した変異体を開発した [*] 。しかし、それらは一貫して野生型よりも効率が低い。なぜだろう?

 その効率低下は、Cas9が標的を補足する2段階の過程にある。通常、Cas9はPAMに結合し、Rループを完全に形成する前に、重要な 「シード 」領域を通して二本鎖DNAを巻き戻し始める [Figure 1引用右図 A 参照]スクリーンショット 2025-04-26 10.19.43しかし、SpGやSpRYのようにPAMが緩和された変異体では、この標的捕捉が、野生型Cas9ほどにはスムーズには進まない。

 生化学的、生物物理学的、細胞ベースのアッセイを用いて、SpRYは最初の結合複合体(結合様式のアンサンブル)に動力学的に捕らわれ、標的外のDNAと結合する頻度が高くなり、標的探索プロセスが遅くなることが示唆された 

 すなわち、PAMの特異性が低下すると、非選択的なDNA結合が持続し (トラップされ / trapped)、ガイドRNAとの安定したハイブリダイゼーションによって標的配列に結合できないことが繰り返し起こり、細胞内でのゲノム編集効率が低下する。スクリーンショット 2025-04-26 10.00.25

 最終的にSpRYがターゲットに到達しても、シード領域では野生型Cas9よりも100倍以上遅くターゲットDNAの巻き戻しを開始する。この遅さは、同じ運動トラップによるもので、DNAの巻き戻しを開始しにくくする高いエネルギー障壁を作り出している [グラフィカルアブストラクト引用右下図参照]

 さらに、オンターゲットでのDNA巻き戻しを速めることは、オフターゲット結合が大きな問題として残すことになる。

 すなわち、PAMの条件を緩和することは、標的可能範囲が拡大と、編集効率は低下するという、トレードオフに直面する。

 これらの洞察により、高効率なRNAガイド下のゲノム編集は、最適な2段階の標的捕捉モデルに依存していることを提案する スクリーンショット 2025-04-26 10.22.11[Figure 7引用右図参照]
  1.  特異的だが低親和性のPAM結合
  2.  迅速なDNA巻き戻し
 このモデルは、オフターゲット編集を伴いながらもWT Cas9が応用分野での利用が広がる一方で、SpRYが応用展開で遅れをとっていることを、説明可能とする。

 本研究は、編集効率を低下させる速度論的ボトルネックに関する重要な知見を提供するだけでなく、これらの課題を克服するための将来の工学戦略の枠組みを示唆している。この成果を他のCRISPR-Cas酵素や、IscBやTnpBなどの祖先RNA誘導性エンドヌクレアーゼにまで拡張することで、RNA誘導性標的の探索と認識を支配する中心原理を明らかにできる可能性があり、今後、ゲノム編集の精度と汎用性のいずれもが向上されていくことが、期待される。

[関連先行論文とcrisp_bio記事]
  1. [*] 2020-03-27 ヒトゲノムのほぼ全域をCas9で標的可能になった - PAMの呪縛を解いたSpGとSpRY ;"Unconstrained genome targeting with near-PAMless engineered CRISPR-Cas9 variants" Walton RT, Christie KA, Whittaker MN, Kleinstiver BP. Science 2020-03-26. 
  2. [*] 2024-05-05 SpRY-Cas9がPAMレスである仕組み - Cas9およびSpGとの比較Unraveling the mechanisms of PAMless DNA interrogation by SpRY-Cas9" Hibshman GN, Bravo JPK [..] Taylor DW. Nat Commun. 2024-04-30. 
  3. "DNA interrogation by the CRISPR RNA-guided endonuclease Cas9" Sternberg SH, Redding S, Jinek M, Greene EC, Doudna JA. Nature 2014-01-29. 
  4. CRISPRメモ_2017/09/30 [第4項]  dCas9が標的を探索する動態:E. coliとS. pyogenesにて. ;“Kinetics of dCas9 target search in Escherichia coli” Jones DL, Leroy P, Unoson C, Fange D, Ćurić V, Lawson MJ, Elf J. Science. 2017-09-29. 
  5. [20220416更新] CRISPR-Cas9はDNAを曲げ捻ることでその配列を読み取る;"CRISPR-Cas9 bends and twists DNA to read its sequence" Cofsky JC, Soczek KM, Knott GJ, Nogales E, Doudna JA.  (bioRxiv. 2021-09-07) Nat Struct Mol Biol 2022-04-14. 
  6. [20220826更新] CRISPR-Cas9の活性化過程におけるR-ループ形成の機構とコンフォメーション変化;"R-loop formation and conformational activation mechanisms of Cas9" Pacesa M [..] Jinek M. Nature 2022-08-24. 
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