crisp_bio

科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

[出典] 
[背景]

 哺乳類の成体脳には、新生ニューロンを生み出すNSC領域がいくつかあり、脳卒中や脳損傷によって損傷した組織を修復することができる。NSCの活性化に影響を与える遺伝子を特定することは、加齢に伴う脳の欠陥に対抗するための介入につながる可能性がある。シグナル伝達経路や転写制御因子を含むいくつかの遺伝的介入が、老齢NSCsの活性化を改善することが示されている。しかし、このような研究は、一度に1つまたは数個の遺伝子に焦点を当てているため、そのスループットには限界がある。従って、老齢NSCsに機能的に影響を及ぼす遺伝子や経路についての系統的な理解はまだ不足している。

 近年、CRISPR-Cas9によるゲノムワイドなスクリーニング技術の登場によって、哺乳類におけるスケーラブルな遺伝子スクリーニングが可能になってきた。例えば、早老症であるウェルナー症候群やハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の幹細胞モデル [1] を含め、生体内でいくつかの表現型 [2] について適用されてきている。しかしながら、正常な老齢細胞における老化制御因子の遺伝子スクリーニングはまだ行われていない。さらに、生体内での遺伝子スクリーニングは哺乳類では困難であり、これまでのところ、発生、若い組織、あるいは癌に限られていた。

 スタンフォード大学の研究チームは今回、高齢の哺乳類細胞や生物に対するCRISPR-Cas9スクリーニング・プラットフォームを開発し、高齢者の組織機能を回復させる可能性のある、これまで知られていなかった遺伝子操作を同定することに成功した。ひいては、脳にこのようなスクリーニングが、加齢に伴う再生機能や認知機能の低下に対抗する戦略の同定に有用なことを示した。

[成果]

 哺乳類の成体脳では、加齢によって神経幹細胞(NSCs)が静止状態から増殖へと移行する能力が損なわれていく。NSCsの機能低下は、加齢に伴う新しいニューロンの産生低下や損傷後の再生不全をもたらす。いくつかの遺伝的介入により、老化した脳の機能が改善されることが知られているが、老化したNSCsや、より一般的には老化した細胞における遺伝子の体系的な機能検査は行われていない。ここでは、in vitroおよびin vivoのハイスループットCRISPR-Cas9スクリーニング・プラットフォームを開発し、老齢マウスのNSC活性化を促進する遺伝子ノックアウトの効果を体系的に探った。

 若いNSCsと老齢NSCsの初代培養細胞in vitroでゲノムワイドなスクリーニングを行い、老齢NSCsの活性化を特異的に回復させる300以上の遺伝子ノックアウトが同定された。ノックアウト遺伝子のトップは、繊毛の組織化とグルコースの輸送に関与している。

 また、生体内(マウスin vivo)でスケーラブルなCRISPR-Cas9スクリーニング・プラットフォームを確立し、老齢脳におけるNSCの活性化と新生ニューロンの産生を促進する24の遺伝子ノックアウトを同定した。特に、グルコーストランスポーターGLUT4をコードする遺伝子Slc2a4 のノックアウトは、老齢NSCsの機能を最も向上させる摂動であった。

 グルコースの取り込みは老化の過程でNSCsにおいて増加し、一過性のグルコース飢餓は老齢NSCsの活性化能力を回復させる。したがって、グルコース取り込みの増加が、加齢に伴うNSC活性化の低下に寄与している可能性がある。

 本研究は、加齢に伴う再生能力の低下に対抗する上で重要な意味を持つ、老齢NSCsの機能を高める遺伝的介入を、in vivoを含めて体系的に同定するためのスケーラブルなプラットフォームを提供したことにもなった。

[引用関連crisp_bio記事]
[crisp_bio注] 

 ヒトの成体脳において神経細胞が新生するのかしないかについては論争が続いている:
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット