[注] PPI(protein-protein interaction / タンパク質間相互作用)
[出典] "A structurally informed human protein–protein interactome reveals proteome-wide perturbations caused by disease mutations" Xiong D, Qiu Y, Zhao J, Zhou Y, Lee D [..] Cheng F, Yu H. Nat Biotechnol. 2024-10-24. https://doi.org/10.1038/s41587-024-02428-4 [所属] Cornell U, Cleveland Clinic, Columbia U, Case Western Reserve U, Case Western Reserve U School of Medicine, Brigham and Women’s Hospital, East China Normal U.
米国に中国が加わった研究チームが今回報告したPIONEERは、塩基配列とタンパク質構造の双方から利用可能な最大限の情報を用いて、特定のタンパク質と相互作用するパートナーのタンパク質との間のインターフェースを予測するアンサンブル深層学習 [Nat Mach Intell, 2020] をベースとするフレームワークである。PIONEERを利用することで、タンパク質相互作用の様々な情報(UniProtや遺伝子名による検索)を探索することができ、また、未解決のタンパク質相互作用を入力して、タンパク質インターフェースを予測し、創薬標的とすべきタンパク質間相互作用の情報を入手することが可能になる。

[詳細]
精密医療/個別化医療はこれまで、全ゲノム/全エクソームシーケンス(WGS/WES)データ並びに形質・表現型のデータと統計解析ツールをベースに、患者ごとに治療に最適な標的変異を同定するアプローチをベースとしてきた。統計解析は疾患に関連する遺伝子変異(バリアント)の同定を導くために極めて重要である。しかし、従来のWGS/WES研究は、一般的に極めて大きなサンプルサイズが必要とされるため、病因バリアントひいては創薬標的の発見には一般的にパワー不足である。さらに、統計はバリアントと疾患の因果関係を直接証明するするものではない。したがって、遺伝学やゲノミクスを精密医療に応用するには、従来の統計的アプローチを超えるアプローチが必要である。
そうしたアプローチの候補が、バリアントに由来する変異タンパク質が関与するタンパク質間相互作用(PPI)ネットワーク全体(インタラクトーム)を理解することである。各タンパク質は平均して10-15個の他のタンパク質と直接相互作用するとされているが、ほとんどのバリアントが、変異タンパク質が関与する全ての相互作用に影響を及ぼすのではなく、特定のPPIを破壊することが知られている。そこで、すべてのタンパク質について、相互作用する一連のタンパク質との間のそれぞれの相互作用インターフェース、を把握することが個別化医療にとって重要になる。
インタラクトームからのアプローチにおいて課題になるのが、実験解析や従来のホモロジー・モデリング・アプローチによって決定された構造モデルが、タンパク質相互作用のわずか約9%にとどまっていることである。PPIの共複合構造の予測は確かに、AlphaFold-Multimer [*1]、AF2Complex [*2]、FoldDock [*3] に代表されるAlphaFoldベースの手法の登場により急速に発展しているが、これらの手法はいずれも時間がかかり、何十万ものPPIを含むインタラクトーム全体を解くスケーラビリティーがない。さらに、AlphaFold2をベースとしたFoldDockによる高品質なモデルは、相同構造が知られていないヒトの相互作用の約2%に留まっている。
PIONEER(Protein-protein InteractiOn iNtErfacE pRediction)は、実験的に決定されたPPIの次世代パートナー特異的相互作用インターフェース予測を生成するためのアンサンブル深層学習パイプラインである。原子分解能の共結晶構造とホモロジーモデルを用いることにより、ヒトと他の7つの一般的に研究されているモデル生物の282,095の相互作用からなる包括的なマルチスケール構造情報ヒトインタラクトームを構築した。この相互作用には、16,232個のヒトタンパク質について実験的に検証された146,138個のPPIがすべて含まれている [Fig. 1: Overview of the PIONEER framework 参照]。
PIONEERを利用して、PPIインターフェースの構造情報に基づいた相互作用の中で、疾患に関連する変異のネットワーク効果をアミノ酸レベルで調べた。さらに、ヒトの疾患におけるPPIの広範な擾乱と、腫瘍の予後や薬剤応答への重要な影響について探索した。たとえば、33種類の癌にわたる約11,000の全エクソーム解析から、PIONEERが予測した体細胞変異(oncoPPIと呼ぶ)に富む586の有意なタンパク質間相互作用(PPI)を同定し、oncoPPIと患者の生存率および薬剤反応との有意な関連を示した。
この新たに構築された構造情報に基づいたインタラクトーム・データベースを、疾患関連変異および機能アノテーションと組み合わせ、ゲノムワイド機能ゲノム研究のためのインタラクティブな動的ウェブサーバーを構築した。また、PIONEERフレームワークを用いたオンデマンドインターフェース予測も可能である。さらに、PIONEERフレームワークをソフトウェアパッケージに変換し、GitHubから公開した。
[*] 引用文献
- “Protein complex prediction with AlphaFold-Multimer” Evans R, O’Neill M, Pritzel A, Natasha Antropova N. bioRxiv. 2022-03-10 (preprint). https://doi.org/10.1101/2021.10.04.463034
- “AF2Complex predicts direct physical interactions in multimeric proteins with deep learning” Gao M, Nakajima An D, Parks JM, Skolnick J. Nat. Commun. 2022-04-01. https://doi.org/10.1038/s41467-022-29394-2
- “Towards a structurally resolved human protein interaction network” Burke DF, Bryant P, Barrio-Hernandez I, Memon D, Pozzati G [..] Kundrotas P, Beltrao P, Elofsson A. Nat Struct Mol Biol. 2023-01-23. https://doi.org/10.1038/s41594-022-00910-8
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