ヒト腫瘍アトラス・ネットワーク（HTAN）：腫瘍の進化を時間的かつ空間的に捉える : crisp

- 一連のHTAN関連論文への招待

[出典] "Human Tumor Atlas Network" https://www.nature.com/immersive/d42859-024-00059-y/index.html

　2018年以来、米国NIH傘下の国立がん研究所（NCI）が資金提供するCancer Moonshot　https://www.whitehouse.gov/cancermoonshot/　<SM>の枠組みで、Human Tumor Atlas Network　https://humantumoratlas.org　（HTAN）は、がんが進化する過程の全域にわたる多様な腫瘍の細胞、分子、組織学的特徴を統合した3Dアトラスを編集してきた。

　　HTANは10の研究センターで構成され、、がんから多次元データを抽出、分析、可視化するツールの構築に共同で取り組んでいる。この統合的アプローチは、がんの発生、進行、治療抵抗性を促進する根本的な生物学的プロセスを明らかにすることを目的としている。サンプル、分析方法、ツールを統合し、腫瘍進化の詳細なアトラスを作成する。分子、細胞、組織の特徴を空間的に理解することで、HTANは癌生物学の多次元的な視点を提供する [＊]。

数字で見るHTAN

　HTAN参画研究者のネットワークは、マルチオミクスデータ[#]を集積し、新しい分析ツールを適用して、多くの臓器や腫瘍型にわたる腫瘍生態系の複雑さの理解を広げてきた。生成されたツールとデータセットは、がん研究コミュニティが腫瘍形成の新たなメカニズムを探求・発見するためのリソースとなる。

[#] 対象・手法の規模：腫瘍部位 21、アトラス 14、ケース 2,088、生体材料 8,425、バルク・オミックス 9、シングルセル・オミックス 3、可視化 10、空間オミックス 8

腫瘍の進化を詳らかにする

2Dおよび3D空間における腫瘍の進化と腫瘍微小環境の相互作用

　分子プロファイリングのアプローチによって、癌の生物学的および臨床的挙動に関する知見を得ることが、期待される。しかしながら、このようなアプローチは通常、腫瘍微小環境内の細胞間相互作用の空間的背景を理解することなく、体外へ取り出された癌組織に適用されてきた。Li Ding博士らによる研究は、さまざまながん種の131個の腫瘍切片を対象とする空間的に解析されたゲノム、トランスクリプトーム、プロテオミクス・プロファイルの豊富なリソースを提供する。腫瘍サブ領域のクローナリティと細胞組織に関する生物学的洞察を提供するだけでなく、この詳細で多層的なリソースは、がんコミュニティが今後マイニングするに値する研究資源である。

哺乳類の発生と前癌状態の時系列データ

　CRISPR技術をベースとして進化するバーコードに基づく細胞系譜追跡法は、正常組織や癌などの病的組織の履歴を遡及・追跡するに強力なツールである。今回、Ken Lauたちは、CRISPR細胞系譜解析法をマウスの発生と大腸がんモデルマウスに応用し、マウスの胚発生過程と癌への移行過程における、組織特異的な細胞拡大の基礎となるタイミングと細胞タイプを同定した。注目すべき所見のひとつは、癌の初期は多クローン性であり、進行癌への移行期に、このクローンの多様性が減少することである。この所見は、異なる進行段階のヒト大腸がんサンプルでも再現された [参考 crisp_bio 2024-11-02]。

家族性大腸腺腫症ポリポーシスのマルチオミクス解析から、早期腫瘍形成に関連する分子経路が明らかになった

　Snyder博士らは家族性大腸腺腫症ポリポーシス患者6人からの93サンプルに基づいて、正常粘膜組織、良性ポリープ、異形成ポリープから得られたトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、リピドミクスのデータセットからなる包括的なマルチオミクスアトラスを用いて、大腸癌形成の初期段階を支える主要なゲノム、細胞、分子イベントを明らかにした。

ツールと方法

転移性乳癌生検のマルチモーダル単一細胞・空間発現マップ

　転移性乳がん患者60人のコア生検の単一核および単一細胞のRNA-seqと空間プロファイリング（4つの方法を使用）により、乳癌転移の患者特異的遺伝子発現プログラムが、時間、転移部位、空間プロファイリング法を超えて維持され、空間表現型が微小環境特徴と相関していることが明らかになった。

CyLinterを用いたハイプレックス組織プロファイルのシングルセル解析における品質管理

　CyLinterを用いたハイプレックス組織プロファイルのシングルセル解析における品質管理サンプル調製から画像の取得と解析に至るまで、物理的な折りたたみやゴミから光学収差や画像処理エラーに至るまで、アーチファクトは多重化組織イメージングデータのシングルセル解析を妨げる可能性がある。CyLinterはこれらのアーチファクトを除去し、データの生物学的解釈を向上させます。

[＊] HTANコレクション

Collection "The Human Tumor Atlas Network (HTAN): exploring tumor evolution in time and space" Nature Portfolio 2024-10-30.

https://www.nature.com/collections/fihchcjehc

[研究論文]