出典]
- 論文 ”Cephalopod-inspired jetting devices for gastrointestinal drug delivery” Arrick G, Sticker D, Ghazal A [..] Buckley ST, Traverso G. Nature. 2024-11-20. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08202-5 [所属] MIT, Brigham and Women’s Hospital, Broad Institute of MIT and Harvard, Novo Nordisk A/S (Denmark), KTH Royal Institute of Technology (Stockholm)
- NATURE PODCAST "Squid-inspired pills squirt drugs straight into your gut" Thompson B, Bates E. Nature 2024-11-20. https://doi.org/10.1038/d41586-024-03812-5;
(00:45 A squid-inspired device for needle-free drug delivery) - RESEARCH BRIEFINGS "Squid-inspired jet devices deliver drugs without a need for needles" Sticker D (Novo Nordisk), Traverso G (MIT). Nature 2024-11-20. https://www.nature.com/articles/d41586-024-03767-7
米国、デンマークおよびスエーデンの産学研究チームが、イカが墨汁を噴射する能力にヒントを得て、それを飲み込むことで、腸の内壁に針を刺すことなく直接薬剤を噴射できる経口製剤を開発した。ほとんどの人は注射よりも飲み薬を好むが、多くの薬剤は消化器官を通過する際に分解されてしまうことが明らかになっている。イカに学んだ新しい飲み込み可能な製剤は、この課題を解決した。ただし、現在は動物モデルで有効性が示された段階であり、ヒトでの安全性を確保するためにはさらなる研究が必要である。
- a. イカ(Sepia officinalis )は、回転軸(破線)に対して噴射口の方向を、軸方向(axial)と半径方向(redial)の二方向で能動的に調整する (この画像はAleksei Permiakovの許可を得て改変して使用)。
- b. 放射状のマイクロジェット送達装置(MiDeRadAuto)によりブタの小腸に薬剤を送達した後8時間経過するまでのインスリン吸収状況。この装置は麻酔下でブタの空腸(小腸の中央部分)に挿入され、完全に覚醒した動物で薬物を送達するために作動された。皮下対照(SC)のブタは皮下に注射を受け、陰性対照(NC)のブタは小腸の内腔に注射を受けた。
課題
何十年もの間、インスリンやワクチン成分のような大きな生物学的分子を送達するための主な方法は、注射針を用いた注射であった。この方法は分子送達に効果的ではあるが、患者の不快感の他に、感染症のリスク、使用済み器具の安全な廃棄の難しさ、などかなりの課題があり、慢性疾患の治療が守られなくなる傾向があった。
胃腸への薬物送達のためのいくつかの経口摂取可能なデバイスが有望視されているが、その多くは依然として注射針に依存しており、したがって同様の問題を抱えている。人々の治療経験を向上させ、治療へのアドヒアランス(処方を守ること)を高めるために、経口経路を通じて消化管に薬剤を安全かつ効果的に投与し、しかも、針を使わない代替手段が求められていた。
解決策
研究チームは、ツツイカ目(squid)やコウイカ目(cuttlefish; 例 Sepia officinalis)などの頭足類のジェット推進メカニズムにヒントを得て、頭足類が水やインクを排出する方法を模倣して [挿入図 a 参照]、高圧の液体ジェットを介して薬剤を消化管組織に直接送達するマイクロジェット・デリバリー・システムを2種類設計した。大きな球状の臓器(胃や結腸など)に向けた軸方向噴射と、小さな管状の臓器(小腸や食道など)に向けた放射状噴射である。また、これらのシステムは、内視鏡に固定することも、通常のカプセル入り薬剤のように自律的に摂取されるデバイスに組み込無ことも可能な設計になっている。
大型哺乳類(イヌとブタ)を使った試験では、マイクロジェット・デリバリー・システムは、インスリン、食欲調節ホルモンGLP-1の類似体、siRNAなどの高分子の送達に成功した。バイオアベイラビリティー(bioavailability / 生物学的利用能)は最大90%に達し、皮下注射で達成されるレベルに匹敵した。例えば、ブタの小腸へのインスリン投与では、9.4気圧で69%のバイオアベイラビリティを達成し [挿入図 b 参照]、イヌの胃への投与では、24.5気圧で90%のバイオアベイラビリティを達成した。これらの結果は、噴射圧と薬物吸収の間に直接的な相関関係があることを示唆しており、このシステムの効率性と制御性を強調している。
意義
マイクロジェット・デリバリー・システムの開発は、注射針を使わずに薬物を送達するアプローチにおける画期的な進歩を意味する。この技術は、特に薬剤を頻繁に服用する必要があり、現在静脈注射や筋肉注射、皮下注射に頼っている慢性疾患の治療コンプライアンスを大幅に改善する可能性がある。また、臨床の場以外での高分子治療へのアクセスを拡大し、より幅広い疾患に対する在宅治療を可能にする可能性もある。
今後の課題
マイクロジェット・デリバリー・システムは新たな薬物投与法として有望ではあるが、今回の研究は前臨床動物モデルに限られている。ヒトにおける安全性と有効性、特に長期使用と消化器組織における潜在的副作用を確立するためには、さらなる研究が必要である。さらに、この技術の適用性は、薬物の特性や標的組織によって異なる可能性がある。
実用化までにはこの他に、規制に適合した最適な安全性を備えたデバイスの製造、ジェット・デリバリーパラメーターの最適化、送達可能な薬物の範囲の拡大が、課題である。また、環境保護の観点からの持続可能性を高めるべく、生分解性材料の採用も課題である。
研究の舞台裏
このプロジェクトのアイデアは、生物の機能に触発された能動的な装置のレビューを含む修士論文の計画を練っているときに閃いた。著者らは、頭足類が水中を移動する動きなど、自然界がいかに効率よく一連の迅速な作動と機械的システムを進化させてきたかに魅了され、そして今も魅了され続けている。その中で、同様のメカニズムを薬物送達に応用できないかと考えた。最初の実験は難航し、イカの噴射動作を模倣した小型だが強力な装置を設計する間に何度も挫折を味わった。そして、最初の動物実験でインスリンの送達に成功したとき、ブレイクスルーが訪れた。このプロジェクトは、流体力学、材料科学、薬理学の専門家を結集し、まさに生物工学の学際性を体現している。- D.S. And G.T.

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