[出典] "Engineered transcription-associated Cas9 targeting in eukaryotic cells" Goldberg GW [..] Noyes MB, Boeke JD. Nat Commun. 2024-11-27. https://doi.org/10.1038/s41467-024-54629-9 [所属] NYU Langone Health, New York U, NYU Tandon School of Engineering
よく研究されているCas9タンパク質を含むDNAをターゲッティングするクラス2のCRISPR-Casエフェクター・ヌクレアーゼは、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)とガイドRNAとの相互作用を介して、ターゲット部位のプロトスペーサーへの結合とその切断を遂行する。この相互作用は、核酸配列特異的であり、構成的に機能することから、DNAターゲッティング活性が空間的に制御されることになる。
CRISPR-Casシステムの応用分野によっては、その活性の時間的制御や内因性シグナルを介した動的制御が求められるが、CRISPR-Casシステム自体には、時間的制御機構は備わっていない。そこで、Cas9やガイドRNAの改変と、化学的、光学的、あるいは酵素的入力によって活性が誘導されるようにする戦略が試みられてきた。また、細胞内に発現したプロテアーゼ [*1]や、細胞内RNAといった内因性シグナルに応答する活性化も実現されてきた。
内在性シグナルとCRISPR-CasによるDNAターゲティングの時空間的結合が、実は、タイプIII-A CRISPR-Casシステムに内在する。このシステムは、多タンパク質のエフェクター複合体から成り、ターゲットのDNA分解が、ターゲット領域からの転写産物(新生RNA)に依存している [co-transcriptional DNA and RNA cleavage:本記事「参考文献」の項参照]。PAM配列の制限下であるが、この転写によって合成される新生RNAの結合は同時にタイプIII-A 複合体を標的DNA近傍に局在させ、そのDNase活性を活性化し、転写されたDNAターゲットがシスで分解される。この過程は、しかし、新生RNAの結合を利用して、他のCRISPR-CasエフェクターによるDNAターゲティングを制御できるかどうかはわかっていない。
本研究では、CRISPR-Casシステムの活性を時空間制御する観点から、タイプIII-A CRISPR-Casシステムのターゲティングメカニズムを部分的にエミュレートすることを試みた。すなわち、シスでプロトスペーサー近傍に、転写された新生RNA基質に結合することができるCas9融合体を工学的に作製することで、真核細胞における転写関連Cas9ターゲティング(Transcription-associated Cas9 Targeting: TraCT)の実現を図った。なお、in vivoにおけるCas9の基本的なDNAターゲティング活性が、新生RNA結合によってもたらされる転写関連活性を覆い隠さないようにするために、中間的な活性をもたらす可能性のある最適ではないPAM (subPAM) を前提とした。
TraCTは、真核生物の酵母やヒト細胞では、subPAM条件下(最適でないPAM相互作用が本来のCas9の活性を制限する条件下)、1つ以上の新生RNA基質がシスで活発に転写される標的DNAに繋留されている場合に、機能する。このTraCTを利用することで、酵母において、異なる遺伝子座にある2つの同一の標的の一方の、あるいは、転写に差異がある2倍体の対立遺伝子座の一方の、選択的編集が実現した [論文 Fig 3参照]。
この研究は、特定のDNA部位におけるCas9のターゲッティング活性の時間的制御を、Cas9のコア・ドメインやガイドRNA成分、あるいはそれらの発現レベルを変更することなく、実現できる可能性を示した。より広義には、真核細胞におけるCRISPR-Cas DNAターゲティングを条件付きで刺激できるシス作用メカニズムとして、共転写RNA結合(co-transcriptional RNA binding)の手法を確立した。
[詳細]
- 研究チームはまず、精製したCas10-Csm複合体が二本鎖DNAをターゲットとして切断することを確認した。この反応には絶対的にターゲット全体の転写が必要であり、また、crRNAタグと5′ターゲットフランキング配列の間に相同性が存在すると阻害された(自己免疫の回避 [補足の項参照])。
- 同じ複合体はin vitroでcrRNA誘導によるRNA切断も可能であり、この反応はcrRNAタグの相同性では阻害されなかった。
- In vivoでは、プラスミドのタイプIII-Aのターゲティングは、ターゲット全体の転写の誘導に伴うDNAの分解と、ターゲットの転写物の分解が進行した。
- DNAターゲティングとRNAターゲティングは独立した事象であることが示された。すなわち、DNAターゲティングがインタクトなCas10 palmポリメラーゼドメインを必要とするのに対し、RNAターゲティングはin vitroとin vivoの両方でCsm3の核分解活性部位を必要とした。さらに、DNA切断に影響する変異はRNA切断には影響せず、逆もまた同様であった。
- 最後に、in vivoの実験から、プラスミドやDNAウイルスに対する免疫には、RNAではなくDNAの切断が必要であることが示された。
- これらの結果は、タイプIII-Aのターゲティングの様々な機構を一つのモデルに統合し、これまで研究されてきたタイプIやタイプIIのCRISPR-Casシステムとは異なる、非常に精巧なターゲティング戦略を明らかにした。
[補足] 本研究までのタイプIII CRISPR-Casシステムの理解
CRISPR遺伝子座とそれに関連する(cas)遺伝子は、ウイルスなどの外来核酸から身を守る原核生物の適応免疫システムをコードしている。このシステムでは、CRISPRアレイにおいてリピート配列の間に格納されているスペーサーと呼ばれる過去の侵入者に由来する配列によって、外来核酸に対する抵抗性が実現されている。一連のリピート配列とスペーサー配列は、長い前駆体crRNA(pre-crRNA)へと転写され、さらにこの前駆体がリピート配列ごとに切断されて短いcrRNAへとプロセスされる(成熟)。このcrRNAがCasタンパク質とともにリボ核タンパク質(RNP)複合体へと集合し、crRNAをガイドとして標的核酸の位置を特定し、分解する。
タイプIII CRISPR-Casシステムの場合は、内部からRNAを分解するエンドリボヌクレアーゼであるCas6によってpre-crRNAがcrRNAへとプロセスされる。リピート配列でのCas6切断は、5′末端の8ntリピート配列(crRNA「タグ」)と3′の残りのリピート配列に挟まれた完全なスペーサー配列を含むcrRNAを生成する。さらに、3′末端リピート配列のトリミングを経て、長さが6 nt異なる成熟crRNAの不均一な集団を作り出す。
タイプIII CRISPR-Casシステムは、III-AとIII-Bに分類される。双方ともタイプIIIを定義するcas10 遺伝子を帯びているが、アクセサリー遺伝子として、タイプIII-Aはcsm 、タイプIII-Bはcmr を帯びている。
タイプIII-A CRISPR-CasシステムによるcrRNAガイド下での核酸ターゲティングは、高度に洗練されている。In vivoでは、ターゲティングにはcrRNAタグとターゲットの5′フランキング配列の間に相同性がないことが必要である。この要件は、侵入核酸上のターゲットと、宿主のCRISPRアレイ自体を区別するためと考えられ、リピート配列の存在がcrRNAタグとの完全な相同性をもたらし、自己免疫を防ぐ。さらに、in vivoでのターゲティングには、ターゲット領域にわたる転写が必要である。標的核酸の性質については議論がある。In vivo遺伝子アッセイでは、 Staphylococcus epidermidis のタイプIII-AシステムについてはDNAターゲティングが実証されたが、Streptococcus thermophilus システムについてはRNAターゲティングが実証された。また、in vitroでcrRNAによるRNA標的化が示されたが、DNA切断の直接的な実証はまだなされていない。
[参考文献] co-transcriptional DNA and RNA cleavage
"Co-transcriptional DNA and RNA cleavage during type III CRISPR-Cas immunity" Samai P, Penson N, Goldberg GW, Hatoum-Aslan A, Marraffini LA. Cell. 2015-05-21. https://doi.org/10.1016/j.cell.2015.04.027 [所属] Rockefeller U
免疫システムは宿主を脅かす様々な病原体を認識し、破壊しなければならない。原核生物に特有なCRISPR-Cas免疫系は、ウイルスやプラスミド感染に対して、そうした侵入者のゲノムに相補的なガイドRNA(crRNA)を介してCasヌクレアーゼが標的を特定し破壊する。多様なCRISPR-Cas免疫系の中で、タイプIII CRISPR-Cas免疫には、標的の転写が必要であり、遺伝学的研究ではDNAをターゲッティングすることが示されたのに対し、in vitroのデータではcrRNA誘導によるRNA切断が示されたが、これらの異なる活性の背後にある分子メカニズムは不明であった。
ロックフェラー大学の研究チームは今回、Staphylococcus epidermidis のタイプIII-A CRISPR-Casシステムのターゲット領域の転写が、Cas10-Csmリボ核タンパク質エフェクター複合体内のそれぞれ独立した活性部位によって、crRNAガイドの標的DNAとその転写産物 (RNA) の双方の切断をもたらすことを示した [グラフィカルアブストラクト参照]。プラスミドやDNAウイルスに対する免疫には、RNAではなくDNAの切断活性が必要である。この研究は、多様なDNAやRNAの侵入者から微生物を守ることができる、非常に汎用性の高いCRISPR免疫のメカニズムを明らかにした。
[*] 本文中引用crisp_bio記事
[*] 本文中引用crisp_bio記事
- 2019-01-11 タンパク質工学によるCas9のブラッシュアップ - プロテアーゼによる活性化;"CRISPR-Cas9 Circular Permutants as Programmable Scaffolds for Genome Modification" Oakes BL, Fellmann C [..] Doudna JA, Savage DF. Cell. 2019-01-10; [RESEARCH HIGHLIGHT] "CRISPR adapted to respond to infected cells" - Engineered tweaks to the popular gene-editing system allow it to fight viral infection. Nat Biotechnol. 2019-01-14;不活性化した状態からウイルス由来プロテアーゼで活性化することが可能なCas9変異体, ProCas9, を作出し、ProCas9が病原性の植物ウイルスとヒトウイルスを検知し応答することを示した。
- CRISPR関連文献メモ_2016/04/30 [第2項] タイプⅢ-B CmrシステムにおけるDNA切断機構(2)
- crisp_bio 2017-04-14 タイプⅢ-A CRISPR/Cas獲得免疫の分子機構
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