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[出典] "CRISPR-Cas spacer acquisition is a rare event in human gut microbiome" Zhang AN [..] Alm EJ. Cell Genome. 2024-12-17. https://doi.org/10.1016/j.xgen.2024.100725 [所属] MIT, Nanyang Technological U, National U Singapore;グラフィカルアブストラクト

 宿主と寄生虫の関係は、双方の進化を促進する。微生物-ファージダイナミクスにおいて、CRISPRは適応的防御機構として機能し、スペーサー獲得を通じて免疫記憶(CRISPRアレイ)を更新する。米国の研究チームは今回、多様な腸内細菌叢におけるCRISPRスペーサー獲得を探究するために、5人からの50の種の3,632分離株の全ゲノム配列、25-40人からの3つの種の2,643分離株の全ゲノム配列、および4人からの388件の時系例メタゲノムデータを比較解析した。

 その結果、分離株の全ゲノムを用いた場合は平均約2.9回の点変異ごとに1スペーサー、メタゲノム時系列を用いた場合は約2.7年ごとに1スペーサーという低頻度でスペーサーが獲得されていることが明らかになった。

 また、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)において、水平遺伝子伝播(HGT)を介して拡散しているCRISPRアレイを同定した。これらのスペーサーは、ビフィドバクテリウムの2つのよく知られたファージを標的とするもので、B. longum の全集団におけるこれらのファージを標的とする全スペーサーの出現率の76%を占めていた。この結果は、CRISPR-Casシステム全体のHGTを介して取得されたスペーサーが、B. longum における局所的なCRISPR-Casシステムの適応段階で獲得されたスペーサーの3倍に及ぶことを示唆した。

 全体として、本研究の結果は、腸内細菌や他の様々な生物におけるスペーサー獲得を介した宿主-寄生体相互作用の動態に光を当てた。ヒトの腸内細菌叢ではスペーサー獲得が稀であることから、最近の宿主-ファージ相互作用を予測するためのCRISPRアレイの利用を再評価する必要性が浮き彫りになった。さらに、HGTが原核生物の適応免疫においてどのように重要な役割を果たしているのか、また細菌の存在量が防御適応にどのように影響するのかという知見は、腸内における抗ファージ防御機構の微妙な挙動を解明することに寄与している。これにより、複雑な生態系における宿主と寄生虫の間の、より広範な生態学的軍拡競争に対する理解が進む。

[研究の背景]

 多くの研究から、制御された実験条件下でプラスミドやファージにさらされると、モデル細菌種においてCRISPR-Casシステムが新しいスペーサーが、数時間から数日のうちに獲得されることが報告されている。一方で、自然環境における微生物によるスペーサー獲得については、数ヶ月から数年かけて行われると報告されている。このように異なる環境間でスペーサー獲得の様相が変動するのは、様々な状況におけるスペーサー獲得の頻度や、このプロセスが宿主-寄生体相互作用をどのように反映しているのか、スペーサー獲得の機構をさらに探究することが必要なことを示唆している。

 生体内でのCRISPR-Casによるスペーサー獲得については2件の研究から、CRISPRアレイの変動は最小限とする報告がされている。1つは、健康なヒトを対象とした2年間のBacteroides fragilis の個体群内での変化がわずかであること、もう1つは、ノトバイオート・マウスを用いたEggerthella lentaでのスペーサー獲得が26日間に1回の頻度である、との報告である。先行研究で報告されたスペーサー獲得が稀であることから、しかし、これらの知見は限られた数の腸内細菌種に特有のものであったことから、幅広いマイクロバイオーム・ランドスケープの包括的な定量分析が求められていた。
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