- NIHとDOEが最初に決定、2025年末までに全機関で実施開始へ
[出典] "U.S. science funding agencies roll out policies on free access to journal articles - NIH and DOE are first to act, with implementation by all set to begin by end of 2025" Brainard E. Science. 2024-12-20 16:30/12-23 13:00. https://doi.org/10.1126/science.z89zepk
ジョー・バイデン大統領の政権が、2025年末までに連邦政府の資金提供による研究から生まれた科学雑誌論文への即時無料アクセスを求め [Science, 2022]、科学出版を震撼させてから2年後、米国国立衛生研究所(NIH)とエネルギー省(DOE)は、これに準拠するための最終計画を発表した。他のすべての米国研究助成機関も、今月末までにこれに倣う予定である。全米科学財団(NSF)は2024年12月に、NIHやDOEのものと類似したパブリック・アクセス方針の改訂を含む、手続きガイドの更新草案を発表し、2025年2月10日までパブリックコメントを受け付けている。
NIHとDOEの方針では、助成を受けた研究機関は、査読を受けた論文が発表され次第、公開リポジトリに掲載することなどを求めている。また、NIHは既に始めていることであるが [Science, 2023]、研究助成機関は、プロジェクトデータの即時共有を要求する見込みである。これは、2022年にホワイトハウスの科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy: OSTP)が初めて要求したもので、世界的なオープンサイエンス運動にとって大きな前進となる。世界の研究論文の9%には、米国が資金提供した著者が加わっている。オープンサイエンスの擁護者たちは、賞賛の声を上げている。しかし、大学はロジスティックスとコストを懸念し、多くの出版社は狼狽している。
出版社の収益を維持しつつ、新しい要件を満たす方法のひとつが、いわゆるゴールド・オープンアクセス(以下, ゴールドOA)であり、著者や所属機関が論文処理料(article processing charge: APC)を支払うことで、論文をすぐに無料で読めるようにするものである。この料金は平均約2000ドルで、批評家たちは、資金を得ていない研究者にとっては持続不可能なモデル(unsustainable model)と呼んでいる。
APCを使わないもう一つの選択肢は、エンバーゴ無し(zero-embargo)で即座に一般公開することである。これはグリーンOAとも呼ばれ、著者またはその所属機関は、受理された原稿を、コピー編集、フォーマット、その他の加工(polishing)をせずに、NIHまたはDOEなどの研究助成機関のリポジトリにアップロードする。2013年以降、NIHと他の米国機関はグリーンOAの枠組みを要求しているが、出版社はこれらの論文の一般公開を最大12ヶ月間保留することを認めている。
2024年、30校の大学や学術団体、170人以上の教員や図書館員が、研究機関に対し、グリーンOAを採用するよう求める請願書に署名した。一方で、同年、NIHに提出された方針案に関する144通の意見書の中で、収益性の高い出版社数社が、グリーンOAの即時導入は、ジャーナルの編集過程を支える購読料を読者や研究機関が支払うインセンティブを失わせると主張していた。また、意見書の中には、大学関係者から「NIHは、著者にAPC以外の選択肢を示し、それを説明する実質的な教育キャンペーンを実施する必要がある」という意見もあった。なぜなら、「連邦政府から資金提供を受けている研究者はオープンアクセスで出版し、APCを支払う必要があると」教職員に主張する出版社ができてきているからである。
大学関係者は、OAに対する現実的な障害を挙げている。NIHのリポジトリであるPubMed Centralへのコンテンツの登録は、原稿のワードファイルやPDFではなく、論文のフォーマットや必要なメタデータの提供など、時間のかかる作業を要する。現在この作業の多くがジャーナル側で行われている。大学側はまた、NIHの助成金が切れた後に助成対象者がPACを支払ってOAに対応した場合、助成機関はAPCを負担しないことにも、反対している。
OAの新方針に関してはその他の疑問点も残っている。著作権や、論文が公に発表されるタイミングを誰が管理するのかという点である。NIHとDOEの両機関は、これらの機関が資金を提供した研究は、米国の既存の規則によって認められた「政府ライセンス(government use license)」によってカバーされていると主張している。NIHはまた、政府ライセンスは論文の他の利用も認めると主張しており、この姿勢は、出版社が論文の使用許可を求めたり、使用料を請求したりすることを制限するかもしれない。最も注目されている利用法のひとつは、研究のために人工知能(AI)を含む自動化された手法を使って論文を分析することである。いくつかの大手出版社は既に、AI開発者に有料コンテンツへのアクセス権を販売している [crisp_bio 2024-12-16]。このような契約は、小規模な非営利の科学協会でも結ばれている。
オープンサイエンスの提唱者たちは、論文へのアクセスは無料であるべきだと長い間主張してきた。2022年のOSTPの方針では、寄託された原稿は「機械可読」であることが推奨され、NIHの草案でもそのような表現が求められていた。出版社は反対し、NIHの最終版では 「machine readable 」は省かれたが、「usability 」は 「copyright law 」と矛盾しないと定められた。
新政策が議会で承認されるか否かは不明である。下院の2025会計年度の予算案では、2022年にOSTPが提唱した政策を実施するための資金を一切禁止している。上院の対応法案は、OSTPに「助成金受領者の著作権、自由なライセンス、作品管理の能力を制限しないよう(機関に)指示する」ことを指示している。この法案は、OSTPとNSFを管轄するが、NIH、DOE、その他いくつかの助成金授与機関は別法案で資金を調達しているため、最終的な決議は、各機関が最終的なパブリックアクセス方針を発表した後の2025年になりそうだ。
今後、政府規制削減の流れの中で、この政策が廃止される可能性もある。こうして政治的な不確実性にもかかわらず、賽は投げられたと確信する者もいる。また、助成金交付先が適応するにはまだ時間が必要だと言う者もいる。DOEは、出版物の追跡と寄託のプロセスを調整する時間を確保するため、助成金交付機関に2年までの猶予を与える予定である。
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