crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Personal Reflections on Five Years of COVID-19" Hotez P. Genetic Engineering & Biotechnology News. 2025-01-06. https://www.genengnews.com/topics/infectious-diseases/personal-reflections-on-five-years-of-covid-19/
 
 著者はBCM-Texas Children’s Hospital Center for Vaccine Developmentにおいて、2010年代からコロナウイルスに対する組み換えタンパク質ワクチン開発に取り組んでいたことから、COVID-19ワクチンを早期に実現し、低中所得国のワクチン製造業者に非独占ライセンスで提供することで、1億人に提供するに至った医師・研究者である。今回、その間、"反ワクチン派"から攻撃され戦った5年間を振り返った。

 著者が予想もしていなかった戦いは、政府の公式声明に対抗することであった。2020年、ホワイトハウスは、パンデミックの深刻さを軽視する一方で、ヒドロキシクロロキンの利点について壮大だが虚偽の主張をするアジェンダを推し進めた。

 自閉症と知的障害を持つ娘の父である著者は、COVID-19パンデミック以前から、反ワクチン団体の主張に対して「なぜワクチンが自閉症の原因にならないのか」について詳しく書いていた。こうした経験から、著者はヒドロキシクロロキンやCOVID-19の拡散に関するホワイトハウスの声明に、いち早く偽情報のレッテルを貼った。

 しかし2021年、今度はCOVID-19ワクチン接種に関する最悪の反科学プロパガンダが出現した。mRNAワクチンは米国で最も広く使用されたCOVID-19ワクチンであり、一部の推計では推定200~300万人のアメリカ人の命を救った。その成功と、mRNAワクチンがCOVID-19による死亡を90%近く防いだという事実にもかかわらず、2021年の夏から、ちょうど米国で病毒性が強いデルタ株の波が始まった頃、悪質な反ワクチンキャンペーンが展開された。

 その始まりは、2021年7月にダラスで開催された保守派の会議 Conservative Political Action Conference (CPAC) であった。その会議では、「COVID-19ワクチンの接種は、(どういうわけか)銃や聖書の政府による没収につながるという」プロパガンダが語られた。そのレトリックは馬鹿げていたが、多くのアメリカ人はそれを受け入れ、CPACでは、最も有害な反ワクチン活動家たちが講演したのである。

 その後、ワクチン義務化に反対する熱意に押され、米国下院自由議員連盟の極右議員や数人の上院議員がワクチンの信用を失墜させようとし、夜のFoxニュースのキャスターによるノンストップの反ワクチン・レトリックが重なっていった。反ワクチンやCOVIDに関する偽情報を広めたFoxニュースに関与していた主要な学術保健センターの教授達はその後、ツイッターがXに移行するにつれ、反ワクチンプロパガンダの主要なX配信者にもなった。その結果は悲劇的とも言える。著者は、COVID-19ワクチン接種を拒否したために、著者の地元テキサス州の約4万人を含む20万人のアメリカ人が不必要に死亡したと推定している

 反ワクチンを含む反科学(anti-science)は今や、アメリカにおいて大きくかつ致命的な勢いとなっている。反ワクチンの偽情報は、COVID-19ワクチンだけでなく、全ての小児予防接種にまで及び、2024年には麻疹が複数発生し、百日咳の患者が大幅に増加した。2022年にはニューヨーク州の下水からポリオウイルスが検出された。

 反科学はまた反ワクチンにとどまらず、COVID-19の起源に関する突飛な主張や、科学者がSARS-2ウイルスを発明したか実験室から流出させたかのどちらかだと主張することもある。このような主張は、人獣共通感染症の流出について公表されている圧倒的な科学的証拠を無視している。科学に対する攻撃は科学者個人にまで及び、著者らの多くが中傷されたり、公共の敵(public enemies)として描かれたりしている。

 著者は、国の科学機関やパンデミック対策能力が永久に損なわれる可能性を心配している。このような傾向を逆転させない限り、わが国の安全保障は将来の感染症の脅威にさらされ続けることになり、若者は科学者の道を歩むことを恐れるようになるだろう。この脅威はCOVID-19の最悪の遺産となるかもしれない。   
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット