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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] 
 2019年に発表されたUKバイオバンクのデータベース [*1] は、生物医学分野の世界で最も包括的な情報資源である。2023年には、54,000人の参加者から得られた約3,000の血中循環タンパク質に関するデータが公表され、2024年には、クイーン・メアリー(ロンドン大学) の精密医療研究所(Precision Healthcare University Research Institute: PHURI)所長であるクラウディア・ランゲンバーグ教授とその同僚が、UKバイオバンクのプロテオームデータを使用して疾患リスクを特定する画期的な研究を発表した [*2]。この研究は、このユニークなデータを利用した数少ない研究のひとつである。

 2025年1月10日にUKバイオバンクは、この試験的データ公開を基に、50万人のUKバイオバンク参加者から採取されたサンプルと、これらのボランティアから15年後までに再度採取された10万人のサンプルを含む60万サンプルのそれぞれについて、最大5,400個のタンパク質を測定する計画を発表した。これで得られるデータセットは、試験的データセットの10倍になる。

 これまでUKバイオバンクのデータは利用申請し承認された約50カ国の20,000人以上の科学者に利用されてきた。プロテオミクスのプロジェクトには、UK Biobank Pharma Proteomics Project(UKB-PP)として知られる14の大手バイオ製薬企業からなるコンソーシアムが資金を提供し、企業は、9ヶ月間独占的にデータにアクセスできる。2026年からは段階的にUK Biobankの承認を受けた研究者に提供され、スクリーンショット 2025-01-15 10.20.372027年までに完全なデータセットがUK Biobank Research Analysis Platform [Webサイト画面キャプチャ右図参照] に追加される予定である。この間に、UK Biobankの残りのボランティア全員(さらに25万人の参加者、さらに5万人の再検査サンプルを含む)のサンプルが分析される予定である。

 このUKバイオバンクのプロテオミクス・データセットにより、研究者は以下のことが可能になる:  
  • 50万人のプロテオーム(タンパク質)とゲノム(遺伝子)のデータを組み合わせて、ヒトの一生における病気の進行に関わる生物学的プロセスのより詳細な情報を得ることができる。ひいては、精密(個別化)医療の開発が加速されるだろう。2023年の論文では、特定の遺伝子変異と血液中のタンパク質レベルとの間に14,000以上の関連性が特定されていた。
  • UKバイオバンク参加者のうち10万人のデータから、人生の中期から後期にかけてタンパク質レベルがどのように変化したかを見ることができ、健康な人の加齢に伴う変化の理解を深め、病気の発症メカニズムに光を当てることができる。これにより、診断マーカーや予後マーカーの研究がさらに加速されるだろう。
  • UKバイオバンクの10万人近い参加者は、脳、心臓、身体の磁気共鳴画像法(MRI)を受けており、プロテオミクスデータを画像データと組み合わせて利用するユニークな方法で、病気のメカニズムを深く理解していくことが可能になるだろう。
  • すでに機械学習ツールは、診断の何年も前に将来の病気を予測することができ、早期の介入を形成する可能性がある。UKバイオバンクに保管されているプロテオミクスデータの深さと広さは、機械学習・AIによる正確な病気の分類を可能にするであろう。
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